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![]() 心臓の病気と治療薬病態と治療薬難易度3 不整脈と抗不整脈薬
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心臓が正常に拍動するためには洞房結節のペースメーカーから発生する自発的な活動電位が刺激伝導系を通って心臓全体に伝わることが必要です。この過程のどこかに異常が生じると心臓の拍動の乱れ、すなわち不整脈 arrhythmia が発生します。不整脈には多くの種類があります。拍動頻度の観点からは正常よりも拍動頻度が多くなる頻脈性不整脈(頻拍性不整脈)と、逆に少なくなる徐脈性不整脈とに大別されます。電気活動の異常が起きる部位の観点からは心房で起こるものを心房性不整脈、心房および房室結節が関与するものを上室性不整脈、心室で起こるものを心室性不整脈と呼びます。頻脈性不整脈には上室性期外収縮、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、心室性期外収縮、心室頻拍、多形性心室頻拍、心室細動などがあります。徐脈性不整脈には洞不全症候群、房室ブロック、脚ブロックなどがあります。不整脈の危険度は様々です。たとえば心房性期外収縮は健常人の約70%に出現し、自覚症状も無いあるいはまれに動悸を感じる程度で治療の必要はないとされています。一方、心室細動では心臓のポンプ機能が完全に消失しますので数分以内に治療する必要がある致死性の不整脈です。 |
不整脈が起きる要因にも様々なものがあります。心筋梗塞などによる心筋の一部の損傷、活動電位の伝わり型に異常を生じさせる副伝導路の存在、心臓の電気活動の基となるイオンチャネルの遺伝子異常などが不整脈の原因となることが知られています。また、毒物や薬物により不整脈が誘発される場合もあります。トリカブトという植物に含まれているアコニチン aconitine は不整脈を起こす作用があり、小説の世界や現実の事件にも登場しました。抗不整脈薬や強心薬など心臓に作用する治療薬は、心筋のイオンチャネルやトランスポーターに作用して心臓の電気現象を正常に保つことで奏功しますが、心臓の電気現象は多くの要因の絶妙なバランスの上に成り立っているので、治療薬が期待通りの効果を示さず、むしろ不整脈を誘発してしまう場合もあります。
最近心臓以外の臓器に作用して奏功する薬物によっても不整脈が誘発される場合があることが話題になりました。抗アレルギー薬、消化器系や中枢神経系に作用する薬物のいくつかで心電図のQT時間の延長(QT延長)が見られ、場合によってはトルサデポアン(torsades de pointes)と呼ばれる致死性の不整脈が誘発されることが明らかになりました。これがきっかけで現在では心臓以外の臓器に奏功する治療薬でも、QT延長作用や不整脈誘発作用の有無が必ず検討されるようになりました。
不整脈の発生機序(起きるしくみ)として以下のようなものがあります。
【洞房結節自動能の異常】
洞房結節の生理的ペースメーカーに異常が生じ、活動電位の発生が不規則になったり、頻度が異常に高くあるいは低くなります。
【異所性自動中枢】(ectopic
focus)
洞房結節の生理的ペースメーカー以外に異常なペースメーカーが出現すると、そこで発生した活動電位が心臓内を伝わってひろがり、拍動を乱します。この異常なペースメーカーの活動には細胞膜からのCa2+またはNa+の流入が関与していると考えられています。
【誘発活動】(triggered activity)
活動電位の発生が引き金となって、活動電位再分極相の途中または活動電位終了直後に異常な脱分極が生じ、異常な拍動が起きます。細胞膜のK+透過性の低下や細胞内Ca2+濃度の異常な上昇により生じると考えられています。
【伝導ブロック】
活動電位が心臓全体へ伝わらなくなり、拍動が乱れます。
【リエントリー】 (re-entry)
通常は心臓全体に伝搬した後消失する活動電位が何らかの異常により消失せず心筋内を旋回して拍動を乱します。 (→リエントリーを示す模式図)