L型T型デュアルカルシウムチャネルブロッカーの発見と展開
難易度3
要旨
T型カルシウムチャネルはL型カルシウムチャネルと異なる性質を持ち、心臓のペースメーカーの活動に寄与しますが、心筋収縮には寄与しません。T型カルシウムチャネルは血管収縮にも寄与し、特に腎微小循環では輸入・輸出両細動脈の収縮に寄与しています。エホニジピンは反射性頻脈が少なく、腎臓に対する保護効果を示しますが、これらはエホニジピンが通常のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬とは異なりL型・T型両カルシウムチャネルを遮断することで説明できます。エホニジピンの光学異性体R(-)-エホニジピンは世界初のT型カルシウムチャネル選択的な阻害薬で、これによる今後の研究・創薬の進展が期待されます。
はじめに
カルシウム拮抗薬はいわゆる電位依存性カルシウムチャネルを遮断して細胞外から細胞内へのカルシウムイオンの流入を減少させ、心筋や血管平滑筋の収縮力を減少させて奏功します。電位依存性カルシウムチャネルはいくつかのタイプに分類されていますが、最も古くから知られていたのがL型カルシウムチャネルで、ニフェジピン、ベラパミル、ジルチアゼムなど従来から知られているカルシウム拮抗薬は主にこれを遮断します。
これに対してT型カルシウムチャネルは活性化の電位領域が深く、従来のカルシウム拮抗薬では遮断されないなど、L型カルシウムチャネルとは異なる性質を有しています(表1)。T型カルシウムチャネルは幼若期の心筋細胞や洞房結節細胞、血管平滑筋などに存在し、静止電位の浅い組織で自動能や収縮に関与すると考えられています。心肥大や心筋症などの病態時にその分布や性質が変化することも明らかになり、また遺伝子がクローニングされて分子構造が明らかになったこともあり、T型カルシウムチャネルは新しい治療ターゲットとして注目されています(1)。
T型カルシウムチャネルを遮断する薬剤として開発されたミベフラジルは高血圧症や狭心症に有効性が示され期待されましたが、残念なことに肝臓での他の薬剤との相互作用が理由で販売中止を余儀なくされました(2)。一方ジヒドロピリジン系化合物ありながらL型のみならずT型カルシウムチャネルにも遮断作用を示す薬剤としてエホニジピンが見いだされ、臨床でも治療薬としての優れた性質が注目されています(3-5)。ここではエホニジピンに関する東邦大学薬学部薬物学教室での研究成果を中心に総括し、臨床で明らかになったエホニジピンの治療薬としての優れた性質とT型カルシウムチャネル遮断作用との関連を考察します。
(表1) L型およびT型カルシウムチャネルの特徴 |
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L型カルシウムチャネル |
T型カルシウムチャネル |
活性化電位領域 |
-30 − +10mV |
-60 − -20 mV |
開閉の時間経過 |
遅い |
速い |
分布 |
骨格筋、心筋、平滑筋 |
洞房結節、幼若心筋、 血管平滑筋 |
機能 |
興奮収縮関連 |
心臓の歩調取り、血管平滑筋収縮、 ホルモン分泌、細胞の成長 |
遺伝子 |
α1C |
α1G, α1H, α1I |
遮断薬 |
通常のジヒドロピリジン系化合物、 ベラパミル、ジルチアゼム |
ニッケル、ミベフラジル、エホニジピン |