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東邦大学 薬学部薬物学教室  
田中 光 行方 衣由紀 M口正悟
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心臓の病気と治療薬

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病態と治療薬 (不整脈心不全狭心症と心筋梗塞高血圧症
治療薬用語解説 .2. 治療薬構造式 .........10.11.12 解説&構造式INDEX

治療薬用語解説

難易度3

強心配糖体

:cardiac glycosides(ジギタリス digitalis)

 ステロイド核に糖が結合した基本構造をもっています。強心配糖体のステロイド核はC,D環の立体配位がcisである点が他のステロイドと異なっていますが、これが強心作用発現に必須です。ゴマノハグサ科ジギタリス類の植物の葉やキョウチクトウ科ストロファンツス類の植物の種子などの成分として得られます。多くの化合物がありますが薬理作用は基本的に同一であり、体内動態が異なっています。臨床的にはジゴキシンメチルジゴキシンが繁用されます。強心配糖体は治療量が中毒、致死量の半分程度と極めて安全域が狭いうえに蓄積するものが多いため血中濃度のモニタリング(therapeutic drug monitoring TDM)を行いつつ投与します。

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強心配糖体の心臓に対する薬理作用

 強心作用(収縮力増大作用): 心筋収縮力の増大により心拍出量が増大します。全身循環とくに腎血行が改善されて尿量が増大する結果、浮腫が減少し、心臓の前負荷の増大も改善されます。急性心不全慢性心不全の治療に用いられます。作用機序は完全に解明されているわけではありませんが、細胞膜の Na+-K+ ポンプsodium-potassium pumpを直接阻害することが知られています。これにより細胞膜内外の Na+ の濃度勾配が減少すると、これに依存して細胞内 Ca2+ を細胞外へくみ出す Na+-Ca2+ 交換機構sodium calcium exchanger (NCX)の働きが低下し、細胞内で心筋の収縮に関与する Ca2+ が増して収縮力が増大すると考えられています。

 心拍数減少作用: 心不全時には低下した心機能を補うために交感神経系が興奮し、副交感神経系が抑制された状態にあり、心拍数が上昇しています。強心配糖体により一回の心収縮による拍出量が増加するとこのような代償性機構が作動しなくなり、洞房結節を支配する副交感神経系の活動が高まり心拍数が低下する。

 興奮伝導遅延作用: 活動電位が心房から心室に伝わるのに必要な時間を延長させます。したがって心房細動心房粗動上室性頻拍などの治療に用いられます。

 強心配糖体の作用はアドレナリン等と比べて、作用の発現及び消失が遅い、正常な心臓に対して作用が少ない、心拍数、酸素消費を増大させない、などの点が特徴的です。

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強心配糖体の副作用

 強心配糖体の最大の副作用は不整脈誘発作用で、心室性期外収縮心室細動房室ブロックなどが誘発されることがあります。静止膜電位の減少、活動電位持続時間の減少による不応期の短縮、細胞内 Ca2+ の蓄積による誘発活動の発生、房室伝導の過度の抑制などが原因と考えられます。利尿薬の併用により低カリウム血症がある場合には、 Na+-K+ ポンプの効率が低下するので強心配糖体の作用が増強され、中毒状態になりがちです。ジギタリス中毒に対しては、投与中止、迷走神経興奮の影響を除去するためのアトロピン投与、低カリウム血症を改善するための塩化カリウム投与、リドカインフェニトイン等の抗不整脈薬の投与が行われます。強心配糖体は延髄にある嘔吐中枢を刺激するため催吐作用があります。

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NYHAの心機能分類(日常生活動作時の自覚症状による分類)

NYHAの心機能分類
クラスI 身体活動は制限されない。
日常生活で疲れ、動悸、呼吸困難や狭心症症状は生じない。
クラスII 身体活動は軽度に制限される。
日常生活で疲れ、動悸、呼吸困難や狭心症症状が生じるが、安静では無症状。
クラスIII 身体活動は高度に制限される。
軽い日常生活でも疲れ、動悸、呼吸困難や狭心症状が生じるが、安静では無症状。
クラスIV 安静でも疲れ、動悸、呼吸困難や狭心症症状が生じ、少しの身体活動で症状増悪。

慢性心不全患者の重傷度に基づく治療指針

NYHAの心機能分類

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循環動態と心不全治療
  左心室弛緩末期圧−心係数曲線

心室弛緩末期圧−心係数曲線 左心室弛緩末期圧−心係数平面の横軸の左心室弛緩末期圧 left ventricular end diastolic pressure LVEDPは心臓が最も弛緩したときに心筋が引き延ばされている程度の指標です。つまり、心臓にかかる前負荷の指標であるとも言えます。縦軸の心係数 cardiac index は単位時間あたりに心臓から送り出される血液の量、すなわち心拍出量 cardiac outputを体表面積で割って体の大きさによる違いを補正したものです。一般に左心室弛緩末期圧が増加すると心係数も増加する右上がりの関係があります。これは心筋は引き延ばされるほど強く収縮するというStarlingの法則が生体内の心臓で成り立つことを示したものです。交感神経興奮によりアドレナリンβ受容体が刺激されたり、強心薬が投与された場合は心臓の収縮性が高まり、この曲線が左上方向に移動します。逆に心不全では心臓の収縮性が低下し、曲線は右下方向に移動します。


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循環動態と心不全治療
  循環動態による心不全の分類(Forrester分類)

Forrester分類 Forrester博士は1976年に急性心不全の循環動態を4種類に分類しました。すなわち、左心室弛緩末期圧と心係数の平面を心室弛緩末期圧18mmHg、心係数2.2 l/分/m2 を境に4つの区分に分けました。一般に心室弛緩末期圧は肺動脈圧と相関しており、これらが18mmHgを越えると肺水腫が生じます。また、心係数2.2 l/分/m2 は血液が十分に各臓器に送られるために最低限必要な心機能であるとされています。正常なヒトの心臓では左心室弛緩末期圧は10mmHg以下、心係数は3.2 l/分/m2 程度で、区分Iに入ります(右図の)。心不全では心室弛緩末期圧ー心係数曲線は右下方に移動しますが、生体はこれを補おうとします。すなわち、交感神経系の活動やアンジオテンシンIIバソプレッシンなどの産生が高まって体液量・血液量が増加、血管系、特に静脈系の収縮が起こり静脈から心臓に灌流する血液量(静脈灌流量venus return)が増加します。その結果左心室弛緩末期圧が高まることにより正常に近い心拍出量が保たれ、区分IIに入ります(右図の)。さらに心不全が悪化して心室弛緩末期圧−心係数曲線が下方に移動すると心室弛緩末期圧を上げても心拍出量を確保できなくなり、区分IVに入ります(右図の)。一方、体液量・血液量が不足している場合には心室弛緩末期圧が低下して心拍出量も低下し、区分IIIに入ります。


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Forrester分類と治療薬

Forrester分類に基づく治療薬の選択 Forrester分類の区分Iは正常あるいは心機能が亢進して心拍出量が過剰になっている状態です。後者の場合は交感神経の影響を抑制するためにアドレナリンβ受容体遮断薬や鎮静薬を用います。

区分IIの場合は肺水腫の原因となっている静脈系の圧力を低下させるために血管拡張薬や利尿薬を投与します。血管拡張薬としては急性心不全では即効性の硝酸薬、慢性心不全ではリモデリング抑制効果もあるアンジオテンシン変換酵素阻害薬がそれぞれ第一選択です。ただし、心室弛緩末期圧を下げすぎて心拍出量が不足しないように注意します。

区分IIIでは血液量を増やして心室弛緩末期圧をあげるために輸液を行い、心臓の収縮性を高めるために強心薬が用いられます。

区分IVは心室弛緩末期圧が高いにもかかわらず心拍出量も不足している最も重症の状態で、血管拡張薬・利尿薬と強心薬の併用が必要です。


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アドレナリンα受容体遮断薬

 血管平滑筋細胞膜上にはアドレナリンα受容体が存在し、交感神経伝達物質のノルアドレナリンがこれを刺激すると血管平滑筋の収縮が起こります。アドレナリンα受容体遮断薬はα受容体に結合してこれを遮断して血管を弛緩させ、血圧を低下させます。通常は降圧療法の第二段階以降に利尿薬やβ遮断薬と併用されますが、代謝、循環に対する副作用が少ないので、糖尿病、腎機能低下、高脂質血症、心筋梗塞を併発している際に第一選択となる場合もあります。心拍出量、腎血流量に影響を与えないので心不全や腎不全を伴う場合にも用いられます。代表的薬物にプラゾシン、ブナゾシン、テラゾシンなどがあります。

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虚血再灌流傷害

 冠動脈の血流が遮断されると狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患になる危険がありますが、一時的に遮断された血流が自然に、あるいはPTCAなどの処置により復活し、心筋の血液による灌流が再開されても、不整脈が発生したり、収縮機能が元に戻らなくなることがあります。これを虚血再灌流傷害と呼びます。

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肺水腫

 肺水腫とは肺の細い気管支や肺胞の中に血液の液体成分が溜まった状態です。左心不全により肺の静脈と毛細血管の血圧が上昇し、肺胞内へ液体成分が漏出すると肺水腫となります。これを心原性肺水腫と呼びます。これ以外にも血液の浸透圧や肺胞の毛細血管の透過性の異常などが原因で起こることもあります。肺に液体が溜まることによって、肺に空気が入らなくなるので、呼吸困難や咳などが見られます。治療としては、必要に応じて酸素吸入により呼吸を助け、利尿薬によって肺に溜まった液体を尿として体外に排泄させます。心原性の場合はさらに強心剤などを使用して肺のうっ血を解消します。

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