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![]() 心臓の病気と治療薬病態と治療薬難易度3 高血圧症と治療薬
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主要降圧薬の積極的な適応と禁忌(JSH 2004) | ||
降圧薬 | 積極的な適応 | 禁忌 |
Ca拮抗薬 | 脳血管疾患後、狭心症、左室肥大、糖尿病、高齢者 | 房室ブロック(ジルチアゼム) |
アンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) |
脳血管疾患後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者 | 妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄 |
アンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACE阻害薬) |
脳血管疾患後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者 | 妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄 |
利尿薬 | 脳血管疾患後、心不全、腎不全(ループ利尿薬)、高齢者 | 痛風 |
β遮断薬 | 狭心症、心筋梗塞後、頻脈、心不全 | 喘息、房室ブロック、抹消循環障害 |
α遮断薬 | 高脂血症、前立腺肥大 | 起立性低血圧 |
(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 : 高血圧治療ガイドライン2004年版、日本高血圧学会、2004 より) |
カルシウム拮抗薬 calcium antagonists (カルシウムブロッカー)は血管平滑筋や心筋細胞の細胞膜上にあるカルシウムチャネル(L型カルシウムチャネル)を抑制し、細胞外から細胞内へのカルシウムイオンの流入を減少させます。血管平滑筋細胞および心筋細胞の収縮を抑制するために血管拡張と心臓収縮力の低下が起こり、血圧が低下します。高血圧症治療のためにはカルシウム拮抗薬の中でも血管拡張作用が強いニフェジピンなどのジヒドロピリジン系薬物が主に用いられます。ジヒドロピリジン系の薬物は心臓に対する抑制作用が弱く、心機能に不安がある場合でも安心して使えるという利点があります。確実に降圧作用が得られ、糖、脂質、電解質の代謝にも悪影響がほとんどありません。現在の高血圧症治療に最も多く使われている薬物群です。持続的な降圧が得られるアムロジピンやベニジピン、さらにはL型以外のカルシウムチャネルに対する作用を併せ持つことでプロフィールを向上させたエホニジピンやシルニジピンなどの薬物も使われています。
ジルチアゼムなどベンゾチアゼピン系の薬物は穏やかな降圧作用と心抑制作用があるので軽症でかつ心拍数の高い高血圧症患者に使われます。ベラパミルなどフェニルアルキルアミン系の薬物は高血圧症に対しては認可されていません。
ジヒドロピリジン系降圧薬の最大の副作用は反射性頻脈、すなわち急激な血圧低下に循環反射が作動して心拍数が上昇してしまうことです。心拍数の上昇は長期的には心臓の機能を損ない、死亡率とも相関することが判明しています。エホニジピン、シルニジピンなどの薬物は反射性頻脈が比較的少ないことが判明していますが、これはL型以外のカルシウムチャネルに対する作用を併せ持つことで説明可能です。ジヒドロピリジン系薬物はグレープフルーツジュースに含まれている成分と代謝酵素を共有しているため、同時に服用すると血中濃度が極端に高まる場合があり、注意が必要です。カルシウム拮抗薬共通の副作用としては下肢の浮腫、頭痛、便秘、歯肉肥厚などがあります。いずれもカルシウム拮抗作用そのものに由来するので避けられないものですが、他の機序に基づく治療薬と併用してカルシウム拮抗薬の投与量を減らすことで有る程度軽減できます。
作用点によるカルシウム拮抗薬の分類 | ||||||
作用するカルシウムチャネルの種類 | 薬剤 | 血管 拡張 |
心臓 | 臨床適用 | ||
収縮力 | 心拍数 | |||||
非選択的 L型カルシウムチャネルブロッカー |
L型 (心臓・血管) |
ベラパミル/ ジルチアゼム |
+ | ↓ | ↓ | 狭心症・不整脈 (高血圧) |
血管選択的 L型カルシウムチャネルブロッカー |
L型 (血管) |
ニフェジピン など |
++ | → | ↑ | 高血圧症 (狭心症) |
デュアル カルシウムチャネルブロッカー |
L型+N型 | シルニジピン | ++ | → | ↓−→ | 高血圧症 (狭心症) 臓器保護への期待 |
L型+T型 | エホニジピン | ++ | → | ↓−→ |
アンジオテンシン系を抑制する薬物は強い血管収縮作用とアルドステロン分泌促進作用があるアンジオテンシンIIの働きを阻害することにより血圧を低下させます。アンジオテンシンIIの生合成を阻害するアンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンIIの受容体への結合を阻害するアンジオテンシン受容体拮抗薬があります。これらの薬物は循環系や代謝に対する副作用が少なく、長期投与により心臓や腎臓に対する保護効果があるとも言われています。これらの薬物による降圧作用は穏やかなものなので、中程度以上の高血圧症に対してはしばしば他の薬物と併用されます。特にジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬との組み合わせは多く用いられます。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬
カプトプリル、エナラプリルなどのアンジオテンシン変換酵素阻害薬 angiotensin
converting enzyme inhibitor (ACE inhibitor) はアンジオテンシン変換酵素(ACE)に結合してその活性を阻害し、血管収縮作用とアルドステロン分泌促進作用を持つアンジオテンシンIIの産生を抑制します。アンジオテンシン変換酵素は血管弛緩作用を持つブラジキニンを分解する酵素であるキニナーゼIIと同じものです。すなわち、アンジオテンシン変換酵素阻害薬はアンジオテンシンIIの産生を抑制し、ブラジキニン量を増やすという二重の働きで血圧を低下させると考えられます。アンジオテンシン変換酵素阻害薬は動脈・静脈の両方に対して拡張作用を有するので心臓の前負荷・後負荷をともに減少させます。冠動脈拡張作用、心筋や血管壁のリモデリング抑制作用もあるとされ、心不全や動脈硬化を伴う高血圧症に適しています。腎臓では糸球体内圧を低く保ち、臓器保護効果を発揮します。糖代謝、脂質代謝、尿酸代謝に対しての悪影響はほとんど無く、組織のインスリン感受性を高める効果もあるとされています。アンジオテンシン変換酵素阻害薬はアルドステロン分泌を抑制するので血液中のカリウムイオンを保持する傾向があります。したがって低カリウム血症を起こしやすい利尿薬との併用も可能です。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬の副作用としてよく見られるのが空咳です。これはブラジキニンと関係していると考えられますが、服用し続けるうちに自然に起こらなくなるといわれています。分子内にSH基を持つ薬物は発疹、かゆみ、味覚異常を起こすことがあります。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬
ロサルタン、カンデサルタンなどのアンジオテンシンII受容体拮抗薬 angiotensin
II receptor blocking drugs (ARB) はアンジオテンシンIIの受容体に結合し、アンジオテンシンIIの血管収縮作用やアルドステロン分泌促進作用などに拮抗します。アンジオテンシン変換酵素阻害薬とほぼ同等の降圧効果が得られ、心筋保護効果、腎臓保護効果も有るとされています。受容体のレベルで働くので、キマーゼにより生成したアンジオテンシンIIの作用も抑制します。アンジオテンシン変換酵素阻害薬でみられる空咳の副作用はありませんが、これはブラジキニン分解に影響しないことで説明できます。
アンジオテンシン系を抑制する薬物 | ||
アンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACE阻害薬) |
アンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) |
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作用点 | アンジオテンシン変換酵素 (=キニナーゼII) |
アンジオテンシンII受容体 (AT受容体タイプ・AT1) |
ブラジキニン量増大 | あり | なし |
副作用の空咳 | あり | なし |
キマーゼにより産生された アンジオテンシンIIの作用 |
抑制しない | 抑制する |
心筋保護効果、 腎臓保護効果 |
あり | あり |
代表的薬物 | カプトプリル/エナラプリル/ リシノプリル/アラセプリル |
ロサルタン/カンデサルタン/ バルサルタン/テルミサルタン |
プロプラノロールなどのアドレナリンβ受容体遮断薬(β遮断薬)beta blockerにはゆっくりとした降圧作用があります。その作用機序に関してはβ受容体遮断によるレニン分泌の減少や心拍出量の低下が重要と考えられていますが、交感神経終末部に存在するβ受容体の遮断によるノルアドレナリン放出抑制や、中枢のβ受容体遮断や圧受容体の再調整による交感神経活動の低下なども関与している可能性があります。これらに関与するのは主としてβ受容体の中でもβ1タイプのものですが、β2タイプの受容体が平滑筋や分泌線に存在しており、平滑筋弛緩やインスリン分泌などに寄与しています。
β遮断薬の副作用としては心臓機能低下、気管支喘息や末梢循環障害の悪化、糖代謝、脂質代謝に対する悪影響が考えられます。β遮断薬には受容体タイプに対する選択性の違い、内因性交感神経刺激様作用や膜安定化作用の有無など、性質の異なる様々なものがあります。
血管を支配している交感神経の終末からは常にある程度のノルアドレナリンが放出されており、副腎髄質からはエピネフリンが循環血液中に放出されます。これらが細動脈の血管平滑筋のアドレナリンα受容体を刺激して血管を収縮させることで、血圧が維持されています。アドレナリンα受容体遮断薬(α遮断薬) alpha blocke rはα受容体に結合して遮断し、血管平滑筋を弛緩させて血圧を低下させます。高血圧症治療には通常はプラゾシンなどα1受容体に選択的な薬物が使われます。フェントラミンなど受容体タイプ非選択的α遮断薬は褐色細胞腫に対して用いられます。α1遮断薬は糖代謝、脂質代謝、尿酸代謝に悪影響を及ぼさず、虚血性心疾患、腎障害、末梢循環障害などがある場合でも使用できます。主な副作用は起立性低血圧です。また、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と併用した場合に反射性頻脈が起こりやすくなります。
利尿薬は腎臓に作用して主にナトリウムイオンの排泄を促すことで尿量を増やし、血液量を減少させて血圧を低下させる薬物です。利尿薬は高血圧症治療の第一選択薬の一つとして繁用されてきました。特にわが国の場合欧米に比べて食塩摂取量が多く、ナトリウムイオンの再吸収を抑制して降圧作用を示す利尿薬の重要性は高いといえます。利尿薬は降圧作用が穏やかで、多くの場合他の高血圧治療薬と組み合わせて用いられます。他の高血圧症治療薬のほとんどが体液量を増やす傾向があるので、利尿薬の併用により副作用の軽減が期待できます。反面、利尿薬は高脂質血症、高尿酸血症を悪化させ、動脈硬化や虚血性心疾患を誘発する危険もあります。
ヒドロクロロチアジドなどのチアジド系利尿薬は降圧作用がおだやかで持続的である上に正常血圧は変化させないという利点があります。投与開始初期には血液量の低下を伴う降圧がみられますが、やがて血液量が正常に回復した後でも降圧は持続するため、利尿作用以外の作用機序も考えられます。腎機能障害を伴う高血圧症はむしろ悪化させます。低カリウム血症を起こしやすいためジギタリスとの併用には注意が必要です。フロセミドなどのループ利尿薬は腎機能を悪化させないため腎機能障害を伴う場合にも使用できますが、低カリウム血症には注意が必要です。カリウム保持性利尿薬は低カリウム血症を起こす危険のある他の利尿薬と併用することがあります。代表的薬物はトリアムテレンやスピロノラクトンで、後者は原発性アルドステロン症に対する第一選択薬です。
腎動脈が何らかの原因で狭くなり、血流が減少することが原因で起きる高血圧症。傍糸球体装置は血圧が低下したと判断してレニン分泌を増大させるため、レニンーアンジオテンシン系が活性化して血圧が上昇します。薬物治療としてははレニンーアンジオテンシン系阻害薬が用いられ、外科的にはバルーンやステントを用いて腎動脈を太くして対処します。
副腎皮質の腫瘍や機能の異常亢進によりアルドステロンの分泌が増大し、血圧上昇、高Na+血症、低K+血症が起きます。対症療法的に降圧薬による治療を行いますが、根治には副腎腫瘍の摘除が必要です。
副腎髄質などのカテコラミン産生細胞が腫瘍化し、カテコラミン分泌が過剰になることにより、高血圧、代謝亢進、高血糖などが起こります。外科手術により腫瘍を摘除して治療します。