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心臓の病気と治療薬病態と治療薬難易度3 高血圧症と治療薬高血圧症血圧には個人差がありますが、一般に収縮期血圧は140 mmHg、弛緩期血圧 90 mmHgを上回った場合を高血圧症と呼びます。血圧が高いこと自体の自覚症状は有りませんが、長期間高血圧が続くと、動脈硬化、心臓機能障害、脳循環障害、脳出血、腎不全、など循環系に関連する多くの合併症が発生しやすくなります。高血圧症の原因としては心臓血管系の病変、神経系、内分泌系や腎臓の異常、薬物などさまざまなものが考えられます。高血圧症のうち腎血管性高血圧症や原発性アルドステロン症、褐色細胞腫など特定の疾患によって起こるものは二次性高血圧症と呼ばれ、その原因となる疾患を治療することで改善されます。高血圧症の90%以上を占める原因の特定できないものは一次性高血圧症あるいは本態性高血圧症 essential hypertension と呼ばれるものです。まずは生活習慣改善、すなわちカロリー制限、アルコール制限、減塩、禁煙、運動などにより血圧のコントロールを図りますが、さらに薬物による治療が必要となったときに用いられるのが高血圧症治療薬antihypertensive drugsです。 高血圧症治療薬一般に血圧は心拍出量と総末梢血管抵抗の両者で決まりますが、本態性高血圧症の場合心拍出量よりも末梢血管抵抗の増加がおきているため、高血圧症治療薬のほとんどが末梢血管抵抗を低下させることで効果を発揮するものです。最もよく使われるカルシウム拮抗薬、アンジオテンシン系抑制薬とともに、β遮断薬、α遮断薬、利尿薬、が第一選択の薬物となっています。この他にも交感神経の働きを抑制する薬物、血管に直接作用して拡張させる薬物など多くの種類があります。高血圧症治療薬は根本的な原因を取り除くものではなく、高血圧という症状を緩和するものなので、ほとんどの場合一生服用し続けなければいけません。従って単に血圧を下げればよいというわけではなく、日常生活や仕事の遂行に支障がないような副作用の少ないものが求められています。さらに、最近は長期的に心臓や腎臓の状態を良好に保つ働き、いわゆる臓器保護効果を有する薬物が注目されています。高血圧症治療薬には作用機序と臨床プロフィールの異なる様々なものがあり、患者の病態や合併症に応じて最適な薬剤選択が可能です。
カルシウム拮抗薬 カルシウム拮抗薬 calcium antagonists (カルシウムブロッカー)は血管平滑筋や心筋細胞の細胞膜上にあるカルシウムチャネル(L型カルシウムチャネル)を抑制し、細胞外から細胞内へのカルシウムイオンの流入を減少させます。血管平滑筋細胞および心筋細胞の収縮を抑制するために血管拡張と心臓収縮力の低下が起こり、血圧が低下します。高血圧症治療のためにはカルシウム拮抗薬の中でも血管拡張作用が強いニフェジピンなどのジヒドロピリジン系薬物が主に用いられます。ジヒドロピリジン系の薬物は心臓に対する抑制作用が弱く、心機能に不安がある場合でも安心して使えるという利点があります。確実に降圧作用が得られ、糖、脂質、電解質の代謝にも悪影響がほとんどありません。現在の高血圧症治療に最も多く使われている薬物群です。持続的な降圧が得られるアムロジピンやベニジピン、さらにはL型以外のカルシウムチャネルに対する作用を併せ持つことでプロフィールを向上させたエホニジピンやシルニジピンなどの薬物も使われています。 ジヒドロピリジン系降圧薬の最大の副作用は反射性頻脈、すなわち急激な血圧低下に循環反射が作動して心拍数が上昇してしまうことです。心拍数の上昇は長期的には心臓の機能を損ない、死亡率とも相関することが判明しています。エホニジピン、シルニジピンなどの薬物は反射性頻脈が比較的少ないことが判明していますが、これはL型以外のカルシウムチャネルに対する作用を併せ持つことで説明可能です。ジヒドロピリジン系薬物はグレープフルーツジュースに含まれている成分と代謝酵素を共有しているため、同時に服用すると血中濃度が極端に高まる場合があり、注意が必要です。カルシウム拮抗薬共通の副作用としては下肢の浮腫、頭痛、便秘、歯肉肥厚などがあります。いずれもカルシウム拮抗作用そのものに由来するので避けられないものですが、他の機序に基づく治療薬と併用してカルシウム拮抗薬の投与量を減らすことで有る程度軽減できます。
アンジオテンシン系抑制薬アンジオテンシン系を抑制する薬物は強い血管収縮作用とアルドステロン分泌促進作用があるアンジオテンシンIIの働きを阻害することにより血圧を低下させます。アンジオテンシンIIの生合成を阻害するアンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンIIの受容体への結合を阻害するアンジオテンシン受容体拮抗薬があります。これらの薬物は循環系や代謝に対する副作用が少なく、長期投与により心臓や腎臓に対する保護効果があるとも言われています。これらの薬物による降圧作用は穏やかなものなので、中程度以上の高血圧症に対してはしばしば他の薬物と併用されます。特にジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬との組み合わせは多く用いられます。 アンジオテンシン変換酵素阻害薬 アンジオテンシンII受容体拮抗薬
アドレナリンβ受容体遮断薬 プロプラノロールなどのアドレナリンβ受容体遮断薬(β遮断薬)beta blockerにはゆっくりとした降圧作用があります。その作用機序に関してはβ受容体遮断によるレニン分泌の減少や心拍出量の低下が重要と考えられていますが、交感神経終末部に存在するβ受容体の遮断によるノルアドレナリン放出抑制や、中枢のβ受容体遮断や圧受容体の再調整による交感神経活動の低下なども関与している可能性があります。これらに関与するのは主としてβ受容体の中でもβ1タイプのものですが、β2タイプの受容体が平滑筋や分泌線に存在しており、平滑筋弛緩やインスリン分泌などに寄与しています。 アドレナリンα受容体遮断薬血管を支配している交感神経の終末からは常にある程度のノルアドレナリンが放出されており、副腎髄質からはエピネフリンが循環血液中に放出されます。これらが細動脈の血管平滑筋のアドレナリンα受容体を刺激して血管を収縮させることで、血圧が維持されています。アドレナリンα受容体遮断薬(α遮断薬) alpha blocke rはα受容体に結合して遮断し、血管平滑筋を弛緩させて血圧を低下させます。高血圧症治療には通常はプラゾシンなどα1受容体に選択的な薬物が使われます。フェントラミンなど受容体タイプ非選択的α遮断薬は褐色細胞腫に対して用いられます。α1遮断薬は糖代謝、脂質代謝、尿酸代謝に悪影響を及ぼさず、虚血性心疾患、腎障害、末梢循環障害などがある場合でも使用できます。主な副作用は起立性低血圧です。また、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と併用した場合に反射性頻脈が起こりやすくなります。 利尿薬利尿薬は腎臓に作用して主にナトリウムイオンの排泄を促すことで尿量を増やし、血液量を減少させて血圧を低下させる薬物です。利尿薬は高血圧症治療の第一選択薬の一つとして繁用されてきました。特にわが国の場合欧米に比べて食塩摂取量が多く、ナトリウムイオンの再吸収を抑制して降圧作用を示す利尿薬の重要性は高いといえます。利尿薬は降圧作用が穏やかで、多くの場合他の高血圧治療薬と組み合わせて用いられます。他の高血圧症治療薬のほとんどが体液量を増やす傾向があるので、利尿薬の併用により副作用の軽減が期待できます。反面、利尿薬は高脂質血症、高尿酸血症を悪化させ、動脈硬化や虚血性心疾患を誘発する危険もあります。 ヒドロクロロチアジドなどのチアジド系利尿薬は降圧作用がおだやかで持続的である上に正常血圧は変化させないという利点があります。投与開始初期には血液量の低下を伴う降圧がみられますが、やがて血液量が正常に回復した後でも降圧は持続するため、利尿作用以外の作用機序も考えられます。腎機能障害を伴う高血圧症はむしろ悪化させます。低カリウム血症を起こしやすいためジギタリスとの併用には注意が必要です。フロセミドなどのループ利尿薬は腎機能を悪化させないため腎機能障害を伴う場合にも使用できますが、低カリウム血症には注意が必要です。カリウム保持性利尿薬は低カリウム血症を起こす危険のある他の利尿薬と併用することがあります。代表的薬物はトリアムテレンやスピロノラクトンで、後者は原発性アルドステロン症に対する第一選択薬です。 腎血管性高血圧症腎動脈が何らかの原因で狭くなり、血流が減少することが原因で起きる高血圧症。傍糸球体装置は血圧が低下したと判断してレニン分泌を増大させるため、レニンーアンジオテンシン系が活性化して血圧が上昇します。薬物治療としてははレニンーアンジオテンシン系阻害薬が用いられ、外科的にはバルーンやステントを用いて腎動脈を太くして対処します。 原発性アルドステロン症副腎皮質の腫瘍や機能の異常亢進によりアルドステロンの分泌が増大し、血圧上昇、高Na+血症、低K+血症が起きます。対症療法的に降圧薬による治療を行いますが、根治には副腎腫瘍の摘除が必要です。 褐色細胞腫副腎髄質などのカテコラミン産生細胞が腫瘍化し、カテコラミン分泌が過剰になることにより、高血圧、代謝亢進、高血糖などが起こります。外科手術により腫瘍を摘除して治療します。 |