アドレナリンβ受容体遮断薬
アドレナリンβ受容体に結合して交感神経から遊離されたアドレナリンや副腎から血中に遊離されたアドレナリンのβ作用を遮断します。心臓ではβ受容体刺激は心拍数と収縮力増大、房室結節での興奮伝導促進に働いていますので、アドレナリンβ受容体遮断薬は心拍数および心収縮力を低下させ、心筋の酸素消費量を減少させます。従って交感神経興奮により心筋の酸素消費が高まっている状況下で生じる労作狭心症の治療に用いられます。また、房室結節での興奮性を低下させるため、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍などの不整脈に対して効果を示します。高血圧症の治療薬としてもよく用いられますが、その作用機序に関してはすべて解明されているわけではありません。
心臓機能に関与しているβ受容体はβ1というタイプのものですが、血管や気管の平滑筋にはβ2というタイプのものが存在しており、これが刺激されると弛緩がおこります。アドレナリンβ受容体遮断薬は血管や気管の弛緩を妨げる働きがあります。従って安静時狭心症や気管支喘息など、平滑筋の収縮が関与する病態を悪化させる危険があり、これらの病態が、みられる場合は使用禁忌となっています。β2受容体に対する作用が少ないβ1選択的なアドレナリンβ受容体遮断薬は比較的危険が少ないとされていますが、その選択性は絶対的なものではないので注意が必要なことに変わりはありません。
アドレナリンβ受容体遮断薬にはβ受容体遮断以外にいくつかの作用を有するものがあります。
内因性交感神経刺激様作用 intrinsic sympathomimetic activity (ISA)は遮断薬がβ受容体を弱いながらも刺激してしまう作用です。この作用はβ受容体遮断の効果を減弱させるものですが、β受容体を完全に遮断してしまうことによる心機能低下の危険を部分的に緩和しているという意味で利点と捉えることもできます。
膜安定化作用 membrane stabilizing effect (MSA)は細胞膜のNa+チャネル(やCa2+チャネル)を遮断する作用で、キニジン様作用と呼ばれることもあります。この作用があると収縮力を低下させる効果が強まり、心機能抑制の危険が高まりますが、心臓の興奮性やエネルギー消費を押さえるという意味では治療効果に寄与しているとも考えられます。
β受容体遮断薬の強さ、β1選択性の有無、内因性交感神経刺激様作用や膜安定化作用の有無からいくつかの群に分類されています(Prichard分類)。高血圧、狭心症、不整脈への適応の有無も薬物によって異なりますが、これは必ずしも薬理学的な差違に基づくものではありません。
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カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬はCa2+チャネル(L型Ca2+チャネル)を通って細胞内に流入する Ca2+ を減少させる薬物です。したがって流入 Ca2+ が収縮に寄与している心筋や血管平滑筋では収縮力の減少や弛緩を引き起こします。原理的には狭心症、不整脈、高血圧症に対して治療効果が期待できますが、薬物により作用点に対する選択性が異なるため、治療薬としての使われ方が異なっています。
ベラパミルはフェニルアルキルアミン系の構造を有するカルシウム拮抗薬の原型とも言うべき薬物で、心臓作用が強く日本では主に抗不整脈薬として用いられます。ジルチアゼムはベンゾジアゼピン系の構造を有し、適度な心筋抑制作用と降圧作用があるため、狭心症や頻脈性の高血圧症に用いられます。これらの薬物は血圧降下による反射性頻脈を起こさないのが長所ですが、徐脈、房室ブロックなどが起きる場合があります。β遮断薬との併用は過度の心抑制を生じる危険があるので避けます。
ニフェジピンやニカルジピンなどのジヒドロピリジン系薬物は血管弛緩作用が強く心抑制作用が弱いため、高血圧症や狭心症の治療に使われます。軽症から重症まで幅広く使われますが、反射性頻脈がみられるのが欠点です。このため徐脈性の高血圧症に使用されたり、β遮断薬との併用が行われたりします。近年は、アムロジピン、ベニジピンなど一日一回投与で奏効する長時間型の薬物や、シルニジピン、エホニジピンのようにL型Ca2+チャネルとは異なるCa2+チャネルに対する作用を併せ持つ薬物も開発されました。 カルシウム拮抗薬全体に共通する副作用にめまい、頭痛、便秘、脳圧上昇などがあり、いずれも薬理作用そのものに基づくものです。
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強心薬
強心薬は心臓の収縮力を高める薬物であり、強心配糖体とサイクリックAMP cyclicAMP (cAMP)濃度を高める薬物とがあります。
サイクリックAMP cyclicAMP (cAMP)濃度を高める薬物 サイクリックAMP cyclicAMP (cAMP)濃度を高める薬物にはアドレナリンβ受容体を刺激する薬物とcAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼの阻害薬があります。これら以外にピモベンダンやベスナリノンなど複雑な作用機序の薬物があります。
強心配糖体 強心配糖体には心筋収縮力を増大させる一方で心拍数を低下させるため、心筋酸素消費量を増加させないという利点があります。一方で有効量と中毒量の差(安全域)が少ない点で使用には注意が必要です。
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アドレナリンβ受容体刺激薬
心筋のアドレナリンβ受容体(主にβ1)が刺激されるとアデニレートシクラーゼが活性化され、細胞内のcAMP濃度が上昇します。cAMPはリン酸化酵素の活性化を介して
Ca2+ チャネルからの Ca2+ 流入を増大させるとともに筋小胞体の機能を増大させ、心筋収縮に寄与する Ca2+ の量を増大させて強心作用を発現します。アドレナリンβ受容体刺激薬は作用発現が速く、心停止時を含め、心機能をすみやかに回復させる必要があるときに使用します。いずれの薬物も心拍数を上昇させ、心筋酸素消費を増大させること、不整脈を誘発する場合があることに注意が必要です。心不全にも使用可能ですが、心筋の状態をさらに悪化させる危険があります。β受容体刺激薬は作用発現は速やかですが持続が短く、長期投与により耐性を生じやすいという特徴があります。
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利尿薬
腎臓は尿を生成し、血液の量や電解質濃度を正常に保つ働きをしています。この機能に異常が生じると血液量や血圧、電解質濃度の異常、全身性の浮腫などが生じます。利尿薬は、尿量を増大させてNa+および水の排泄を促す薬物で、浮腫、高血圧症、心不全の治療に用いられます。
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ホスホジエステラーゼ阻害薬
ホスホジエステラーゼを阻害して心筋および血管平滑筋細胞内のcAMPの分解を抑制し、cAMP濃度を上昇させます。強心作用に加え血管拡張により心臓の負荷を軽減する効果もあるのが長所であるとされています。
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狭心症の要因と治療薬
狭心症は冠動脈の狭窄が原因の労作狭心症と冠動脈の攣縮が原因の案性狭心症とに大別されますが、実際の病態は両方が重なっているものがほとんどです。
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塞栓症
塞栓症とは血管内の異物が血流に運ばれて細い血管に詰まり、血流が遮断されることです。塞栓が脳血管で起きるのが「脳塞栓」、肺で起きるのが「肺塞栓」で、いずれも塞栓の下流の組織が壊死を起こし、機能が損なわれます。塞栓症のうち血液が凝固してできた血栓が詰まる場合を「血栓症」といいます。 血栓ができる原因としては心房細動による心臓内の血流の乱れや、下肢の血流のうっ滞があります。飛行機搭乗などにより長時間水分をとらずに座り続けると下肢静脈に血液がうっ滞して血栓ができやすくなることが知られており、「エコノミークラス症候群」と呼ばれて注目されています。
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循環反射(圧受容体反射)と反射性頻脈
圧受容体反射:baroreceptor reflex, 反射性頻脈:reflex tachycardia
血圧が急激に変化した場合にそれを元に戻そうとする循環反射という機構が作動します。総頚動脈から内頚動脈が分枝した直後の頚動脈洞という部位と、左心室からでた直後に大動脈が大きく湾曲している大動脈弓の部位には、血圧をモニターする圧受容器が存在します。これらの部位から循環中枢に向かう求心性の神経は動脈血圧が上昇すると興奮し、低下すると興奮を停止します。循環中枢はこの情報を受け取り、血圧変化を打ち消すように自律神経の活動を制御します。血圧が急激に低下した場合、心臓を支配する交感神経を興奮させ、副交感神経の興奮を抑制することで、心拍数および収縮力を増加させ、心拍出量を増大させます。同時に血管収縮性の交感神経を興奮させて末梢血管抵抗を増大させ、その結果血圧は上昇します。このときの心拍数の上昇を反射性頻脈と呼びます。このような反応はジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬など、血圧を低下させる薬物によっても誘発されることがあります。
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