病態と治療薬
難易度3
不整脈と抗不整脈薬
抗不整脈薬 anti arrhythmic drugs
抗不整脈薬は従来からVaughan Williamsの分類により第1群から第4群までの4つの種類に分類されていますが、この分類に含まれない抗不整脈薬も存在します。最近、作用点に基づいて抗不整脈薬の作用を記述する新しい方法としてSicilian
Gambitの分類が提唱されています。現状では確実に効果を現し、且つ副作用の少ない抗不整脈薬はなく、より優れた治療薬の開発が望まれています。
【Vaughan Williamsの分類 第1群】 Na+チャネル抑制薬
第1群の抗不整脈薬は活動電位の立ち上がり速度を減少させる薬物で、Na+チャネルを抑制します。これにより心筋細胞は活動電位を発生しにくくなるので、ある細胞が異常な電気的刺激を受けたときに異常な活動電位を発生する可能性が減少します。また、異所性自動中枢にはNa+チャネルが関係しているものもあり、第1群の薬物はこれを抑制すると考えられます。活動電位の立ち上がり速度は活動電位が心筋内を伝わる速さ(伝導速度)と比例関係にあります。従って第1群の抗不整脈薬は活動電位が伝わる速度を低下させます。第1群の抗不整脈薬は臨床的に顕著な効果が得られ易いとされていますが、大量投与や長期投与により不整脈や突然死を誘発することもあるので注意が必要です。最近では、米国で行われた大規模な臨床調査
(Cardiac Arrhthmia Suppression Trial: CAST) において、「第1群の抗不整脈薬を服用した場合、死亡率がむしろ高まると」いう結果が判明し話題となりました。
【Vaughan Williamsの分類 第2群】 アドレナリンβ受容体遮断薬
第2群の抗不整脈薬はアドレナリンβ受容体遮断薬です。洞房結節や房室結節の細胞では脱分極の主役はカルシウムチャネルを通るカルシウム電流で、これにより洞房結節での自発的活動電位発生と房室結節での活動電位の伝導が維持されています。ノルアドレナリンやアドレナリンがアドレナリンβ受容体に結合するとカルシウムチャネルが活性化され、心拍数と房室伝導速度が増大しますが、第2群の抗不整脈薬はアドレナリンβ受容体の段階でこれを抑制します。したがって運動や精神的緊張時の交感神経興奮による自動能亢進や伝導性の変化が原因の不整脈に対して効果が期待できます。一方、カルシウムイオンは心筋収縮でも中心的な役割を果たしていますので、第2群の抗不整脈薬は心筋収縮力を抑制する作用があります。したがって急性心不全時には禁忌、慢性心不全のある場合には慎重に使わなければいけません。気管支喘息には禁忌、糖尿病、高脂質血症には慎重に使用しなければなりません。
【Vaughan Williamsの分類 第3群】 活動電位持続時間を延長させる薬物
第3群の抗不整脈薬は主にK+チャネルを抑制し、活動電位持続時間を延長させる薬物です。活動電位持続時間が延長すると不応期も延長するので異常な電気的刺激により活動電位が誘発される可能性が減少し、不整脈が抑制されると考えられます。その一方で、QT延長やトルサデポアンを起こす危険もあり注意が必要です。したがって、他剤が無効な心室性不整脈に限って使うことが出来ます。
【Vaughan Williamsの分類 第4群】 カルシウム拮抗薬
第4群の抗不整脈薬はカルシウム拮抗薬で、Ca2+チャネルを抑制し、細胞内へのCa2+流入を減少させます。
Ca2+依存性の異所性自動中枢を抑制し不整脈に奏効すると考えられますが、正常なペースメーカーも抑制し徐脈をもたらす可能性もあります。また、細胞内Ca2+濃度の上昇を抑制して誘発活動による不整脈に奏効すると考えられます。カルシウム拮抗薬の中でも心臓に対する作用が強いベラパミルやジルチアゼムが用いられます。過度の降圧、徐脈、心筋収縮力の低下に注意が必要です。
それ以外に不整脈の治療に使われる薬物として、頻脈性不整脈にはジギタリス、ATP、硫酸マグネシウムなど、徐脈性不整脈にはアトロピン、イソプロテレノールなどがあります。