アルツハイマー病は、脳の記憶中枢などの特定部域において神経細胞内外に異常タンパク質が蓄積し、その有害作用で細胞死が起こり、神経機能(特に認知機能・記憶・感情などの高次機能)が障害される病気です。
特に神経細胞外に溜まるβアミロイド(Aβ)と呼ばれるペプチド(タンパク質)の凝集物は、組織学的に老人斑と呼ばれ(実際、脳の中に出来た微小のシミのように見えます)、鉄イオンの共存下に活性酸素(ヒドロキシラジカル) を産生して神経細胞死を引き起こすと言われています。Aβの蓄積はアルツハイマー病の原因として最も注目され〈アミロイド仮説〉、種々の方法でそれを減らして病気の進行を遅らせようという試みがされています。
Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)からある種のタンパク質分解酵素の働きで切り出されます。Aβが切り出される量が多かったり、分解されないで溜まってきたりして凝集して細胞毒性をあらわすことになります。 私たちは以前に老化におけるタンパク質分解活性の変化を重視した一連の研究の中でAβの分解に関わると考えられる酵素を明らかにしました (Kurochkin and Goto, Alzheimer's beta-amyloid peptide specifically interacts with and is degraded by insulin degrading enzyme.FEBS Lett. 345:33-37,1994) 。
それは従来インスリン分解酵素と呼ばれていたタンパク質分解酵素でした。その後、理化学研究所脳科学総合研究センターの西道隆臣博士らが別の有力なAβ分解酵素ネプリライシンを発見しています (Iwata et al. Identification of the major Abeta1-42-degrading catabolic pathway in brain parenchyma: suppression leads to biochemical and pathological deposition. Nature med. 6:143-150, 2000)。
(参考:βアミロイドの分解に関する公開討論 http://www.alzforum.org/res/for/journal/leissring/default.asp)
このほかに神経細胞内に溜まる形態学的に神経原繊維変化と呼ばれる異常タンパク質もアルツハイマー病の発症と深く関わっていると考えられています。その実体は異常化したタウと呼ばれるタンパク質です。