老化のメカニズム

老化の分子メカニズムに関する主な学説

ソ連からイギリスに亡命したZhores A. Medvedev (エラー破綻説の提唱者の一人)によると老化学説は300を下らないといいます(Biological Review 65: 375-398, 1990)。老化の複雑さを象徴する数字です。説の中には特定の細胞や組織の老化を説明するだけのものもありますがそのうち細胞組織に一般に当てはまる可能性のあるものを列挙します。いずれも他の学説と重なり合う部分があり、相互に排他的なものではありません。

主な老化学説 (主な提唱者,年)

  • フリーラジカル説(D.Harman,1956)
  • 突然変異説 (LSzilard,1956;H.Curtis,1964)
  • エラー破綻説(Z.Medvedev,1961,L.Orgel,1963)
  • タンパク質架橋説(F.Verzar,1964;JBjorksten,1968;R.Kohn,1971)
  • 異常タンパク質蓄積説(D.Gershon,1970;R.Cutler,1975)
  • 生体膜異常説(I.Nagy,1978)
  • 細胞分化異常説(R.Cutler,1982)
  • ミトコンドリア異常説(D.Harman,1972;A.Linnane,T.Ozawa,1989)

このように主な老化学説は20年以上も前に唱えられたものですが、いずれの説も現在でも完全には肯定も否定もされていません。 フリーラジカル説は酸化ストレス説に形をかえて他の多くの説を包括する考え方になっており、老化研究者がもっとも好意的に見ている説です。 実際、近年数多く報告されている線虫、ショウジョウバエ、マウスの長寿変異株では酸化ストレスが軽減していることがしばしば強調されています。 しかし、酸化ストレスだけでは老化は説明できないだろうと考える研究者もいて、決定打といえるデータが不足しているのも事実です。
老化研究の大御所ワシントン大学のGeorge Martin教授は老化のメカニズムをPublic mechanismと Private mechanismに分けて考えることを提案しています(後藤:Gerontology New Horizon (メディカルレヴュー社) 16: 120-123, 2004を参照)。 前者は「異なる生物あるいは組織に共通する普遍的なメカニズム」。 後者は「一部の生物あるいは特定の組織にしか当てはまらない個別のメカニズム」を指します。 彼の分類では酸化ストレス説はPublic mechanismと考えていいと思います。

上述の学説にはいずれも活性酸素が関わっているか、その可能性があります。 そこで、ここでは活性酸素の関与を中心に老化の分子メカニズムを考えたいと思います。

 

 

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