一般に寿命の短い動物では老化は早く進み、寿命の長い動物では遅く進み、生物種ごとにほぼ決まっていると考えられています。
従って、「老化」 は遺伝支配を受けていると思われますが、今のところ哺乳類では“老化遺伝子”や“抗老化遺伝子”あるいは“長寿遺伝子”のような特別な遺伝子は見つかっていません。ヒトでは、同じ遺伝子セットを持っていても個々の遺伝子のヌクレオチド配列(遺伝情報)には微妙な違いがあること(遺伝子多型)が明らかになりつつあります(註参照)。ある種の遺伝子多型と寿命あるいは加齢関連疾患の罹患リスクとの関係が明らかになっている場合があります。これを長寿遺伝子と呼ぶ研究者もいますが、正確には長寿遺伝子多型というべきでしょう。
双子の寿命一致率や実験動物の系統間における寿命の違いから、同じ種の中では寿命に対する遺伝の寄与率は25−30%程度とされています 。
しかし、「老化と加齢」で説明してあるように寿命は老化と直接関連なく決まることも多いので老化速度に対する遺伝の寄与率がこの割合になるかどうかわかりません。老化(=生体機能の加齢による低下)速度はライフスタイルや環境を受けて変わりますから遺伝の寄与を調べるのは難しく、現在では老化速度に対する遺伝の寄与は明確 にはなっていません。
何 故ヒトも動物も老いるのでしょうか?また、何故種としては同じ遺伝子セット(ヒトには2万数千の遺伝子があります)をもち、同じ年齢であるのに、人によっ て老齢期において体力的な差や病気にかかりやすい・かかりにくいなどの免疫力、記憶力などの差が生まれてくるのでしょうか?上で説明したように色々な遺伝子の多型によるかもしれません。多型の種類によって遺伝子の発現が変わり、産生されるタンパク質の量や、ある場合には質も変わって、それが生体機能に影響する可能性があります。
註: 生体機能を支えているタンパク質の遺伝子は4種類のヌクレオチドが連なった構造をしています。その並び方(配列)は誰でもほとんど同じですが、ある頻度で 配列が変わっている場合があります。通常1個のヌクレオチドが別のヌクレオチドに置き換わっているため、それを単一ヌクレオチド多型 (single nucleotide polymorphism, SNP:複数形でSNPsというのが一般的です。一塩基多型という場合もあります)といいます。SNPsの違いでタンパク質のアミノ酸配列が変化すること もありますし、アミノ酸配列は変わらずにその遺伝子発現の程度が変化することもあります。いずれにしてもそのタンパク質に依存している生体機能に影響し、 病気に対する抵抗力の個人差を生み寿命に影響することがあります。実際、アポリポタンパク質、アンジオテンシンン変換酵素などの遺伝子多型で長寿あるいは 短命に関連しているといわれて います。