“老化(senescence, aging)”と“加齢(aging)”は混同されやすい表現で、専門家でもしばしば不正確な使い方をする場合があります。 通常、“加齢”とは、ヒトやネズミでは生まれてから死までの物理的な時間経過のことで、ハエやセンチュウ(“老化モデル動物”の項参照)では成虫になってから死ぬまでの時間経過を指します。したがって、多くの動物では“加齢”の間に“老化”が進行します(後藤佐多良:基礎老化学入門―老化の基本概念と論点、細胞工学 21:704-708, 2002)。
“老化”とは加齢に伴って生体機能、例えば筋力、神経伝導速度、肺活量、病気に対する抵抗力などが低下することです。 年齢にともなうこのような機能低下は、一般に生殖年齢に達したあとに始まり、人によって早い遅いはありますが誰にでも起こります。ヒトでは20歳から30歳以降に始まります。注意していただきたいのは「老化は病気ではない」ということです。別項で説明する老化関連疾患あるいは老年病は生物学的な老化が背景にある場合が多いと考えられます。 実際、動脈硬化症、骨粗しょう症、糖尿病、認知症などの老化関連疾患の最大の危険因子(リスクファクター)は「加齢」であるとしばしば言われます(正確には「生物学的老化」と言うべき)。
動物種間で比較すると、一般に寿命が長い種ほど老化速度は遅いと言えますが、同一種内の個体間では必ずしもそうとは言えません。 病気や事故での死亡は老化とは関係なく起こることもあるからです。
加齢の過程ではヒトでも動物でも生体内外の原因による死亡確率が指数関数的に増加します(これをGompertzの法則といいます)。 ヒトでは、30歳以降大体8年毎に死亡確率は約2倍づつ増えてゆきます。80歳では40歳の30倍も死にやすいということになります。 しかし、90歳以上の超高齢者では増加が緩やかになることが知られています。 超高齢まで生きる人々は特別に丈夫に出来ている(遺伝的に異なる)のかもしれません。
「老化」や「加齢」のほかに時に混同される言い方に「寿命」があります。“寿命(lifespan, longevity)”は、誕生から死までの期間(時間経過)であり、種の最長寿命(maximum lifespan)を指すこともあります。