地球上の好気的生物は、酸素という諸刃の剣の益と害を受け入れながら生きています。進化的に見ると、その害を減らす仕組みをうまく獲得した生き物が現在子孫を残し繁栄していると言えるでしょう。大腸菌もヒトも止む無く生じてしまった活性酸素の毒性を下げる幾つもの防御機構をもっています。それは 3種類のカテゴリーに分けて考えることが出来ます。
第一に、発生した活性酸素を捕捉して無毒化する物質(抗酸化物質)があります。
また、その発生を抑える物質もこのカテゴリーに含めることが出来ます。
前者には、グルタチオン、ビタミンEやビタミンC、尿酸、ビリルビンなどがあります。尿酸は、通風の原因になり、悪者扱いされていますが、最近は抗酸化性が強いことが注目されています。ビリルビンも 壊れた赤血球から生じる黄疸の原因物質ですが、高い抗酸化活性があると報告されています。よく知られた新生児黄疸は、お母さんのお腹から酸素濃度の高い世界に生まれてきたときの防御機構の表れかもしれません。
活性酸素発生の触媒になる鉄などを押さえ込む作用のあるタンパク質(フェリチン、セルロプラスミンなど)も第一次防御機構に分類されるでしょう。
第二のカテゴリーは、活性酸素を分解除去する抗酸化酵素です。
スーパーオキシドラジカルを過酸化水素に変えるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、過酸化水素を水と酸素に分解するカタラーゼ、過酸化水素を含めた一般のパーオキシド(例えば脂肪酸パーオキシド:いわゆる過酸化脂質)を分解するグルタチオンパーオキシダーゼなどがあります。
残念ながら、非常に危険な活性酸素であるヒドロキシラジカルや一重項酸素を無毒化する生体内物質や抗酸化酵素は知られていません。
第三に、活性酸素によって傷害を受けてしまったあとに、傷害分子を修復するか、分解除去して作り直す仕組みがあります。例えば、酸化傷害DNAは修復酵素によって修復されてもとのDNAに戻ることができます。一部の過酸化脂質も酵素的に修復可能です。タンパク質の酸化修飾体は、大半が不可逆的な変化を受けているために分子全体を分解して新しく作り直すという方法がとられます。