ヒトは生きてゆくのに必要なビタミンC (VC)やビタミンE (VE)を合成することが出来ません。したがって食物などから摂取する必要があります。VC やVEはラジカル(他の物質と非常に反応しやすい物質。活性酸素の一部はラジカル)と反応してラジカルが他の物質と反応しないようにしてしまいます。VCは水に溶ける物質、 VEは油に溶ける物質です。したがってそれぞれの細胞内における抗酸化作用で役割が分担されています。すなわちVEは細胞膜の中で脂質が過酸化されるのを抑えています。VCは細胞質や細胞外の水が多い環境で抗酸化作用を発揮しています。VC もVEも細胞内では抗酸化作用のほか色々な役割を担っています。したがってこれらのビタミンが不足すれば種々の病気が発症することが古くから知られています。では、過剰に摂取すれが健康増進や老化の進行が抑えられでしょうか。
残念ながら通常の食事(食餌)を摂っている上に摂取する抗酸化ビタミンに抗老化作用があるという科学的な証拠はほとんどありません。大量摂取は無益であるか、むしろ有害作用が懸念されています。不足すれば、もちろん生体機能に支障がでたり、種々の病態が発生したりするのは明らかですが、必要量以上の摂取が有益であるという証拠は高齢者の場合でもありません。野菜や果物を適度に食べていればサプリメントは不要と考えていいでしょう。
図27と28にVCとVEの過剰摂取が必ずしも有益ではなく、むしろ有害かもしれないという報告を例として示します。
図27は、健常人が一日所要量100mgのVCを400mg、長期間にわたって飲んだ場合の白血球中のVC含量とそのDNAの酸化傷害の程度を調べた結果です。VC含量にはほとんど影響がないのは予想されたことですが、DNA傷害は通常量摂取の場合よりも増えています。さらに問題なのは大量摂取をやめて何週間も経っても傷害が減らないどころかむしろ増えている点です。VCは酸化反応の触媒になる鉄を還元して活性酸素の発生を増強している可能性が考えられます。
図28はVEに関するメタアナリシスという手法の解析結果です。多くのVE投与臨床研究結果を集めて総合的に評価しています。個々の研究は何らかの病気の治療としてVEの大量投与を行っていますから健常人への投与実験ではありませんが、必要所要量の何十倍もの投与レベルまで見ても有益な効果はほとんど見られず、むしろ高用量では死亡率が上昇する傾向が見られています。VEはVCと違って脂溶性で蓄積する性質がありますからその影響が出ているかもしれません。いずれにしてもVCやVEを必要以上に摂ってもいいことはないということはこれらの報告から分かると思います。