心筋細胞膜の活動電位が引き金となって筋収縮に至る過程(
興奮−収縮関連、E−C coupling )には、細胞外から細胞膜を通って流入するカルシウムイオン(Ca2+)が重要な役割を演じていると考えられているのです。
このことは、心筋標本を浸す溶液( 細胞外液 )からCa2+を除去すると、活動電位は起こっていても心筋収縮力は極めて短時間に消失するという簡単な実験からも容易に推測できます(右図、上)。
心筋細胞に活動電位が発生するとカルシウムチャネルが開口し、Ca2+が細胞内に流入します。流入したCa2+は筋小胞体(sarcoplasmic
reticulum; SR)のjunctional SRのリアノジン受容体チャネル(ryanodine
receptorチャネル;RYRC)を開口させ、そこを通って大量のCa2+がSR内から細胞質に放出されます。このCa2+によるRYRCからのCa2+放出促進はCa2+-induced
-Ca2+ release (CICR)と呼ばれています。細胞内のCa2+は収縮タンパクに結合して収縮を引き起こした後、再びSRに取り込まれるか細胞膜上のNa+-Ca2+交換機構により細胞外へとくみ出されます。この収縮時の細胞質内Ca2+濃度の上昇と低下の動きはCa2+トランジェントと呼ばれています。活動電位の発生する前は約100nmですが、Ca2+トランジェントのピークでは1マイクロメートル以上になります。
このように心筋の収縮はCa2+トランジェントにより制御されているわけですが、カルシウム感受性蛍光プローブという特殊な分子を用いるとこのカルシウムイオンの変化を目で見ることが可能です。カルシウム感受性蛍光プローブにはカルシウムイオン濃度の変化に応じて蛍光を出す性質があります。これを生きた心筋細胞にあらかじめ取り込ませておき、共焦点レーザー顕微鏡で観察すると、活動電位の発生直後に細胞質全体のカルシウムイオン濃度が上昇し、そのあとに細胞の収縮が起きていることがわかります。これが心臓の全ての心筋細胞でほぼ同時に起こるのが正常の心筋収縮です。つまり、心臓が正しく拍動するためにはこの"活動電位→Ca2+トランジェント→収縮"のしくみが正しく作動する必要があります。この流れのどこかに異常が生じると心臓の拍動が不規則になる状態、すなわち不整脈となります。
カルシウム感受性蛍光プローブと共焦点顕微鏡を組みあわせた手法により、生きた心筋細胞内のカルシウムの動きをさらに詳しく知ることが出来ます。また、蛍光プローブにはカルシウムイオンに限らず、各種細胞内物質やタンパク機能を捉えるためのものが次々と考案されつつあり、様々な生命現象の理解や治療薬開発への応用など、夢は無限に広がります。
これらの機構を模式的に図に示します(右図、下)。
動画
カルシウム感受性蛍光プローブを用いてとらえた、心室筋細胞の収縮とカルシウムイオン濃度変化
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