20081220
森田 考恵

「白井市名内・平塚地区、印西市浦部地区における水生植物の生育分布調査」

寺園 直美(千葉県白井市けやき台)
森田 考恵(千葉県白井市大山口)

【はじめに】

手賀沼は、昭和21年(1946年)に国営印旛手賀沼干拓建設事業が着工され、昭和43年(1968年)に完成した。土地改良後の既存調査としては、「マシジミとガシャモクに関する調査研究報告集」(*1)に掲載されていた『手賀沼流域おける水生生物の生息状況』(*2)があり、平成9年~11年度(1997年~1999年度)に調査を行っている。

その後10年たち、財)千葉県環境財団が、市民調査による水草類分布確認調査(*3)を募集した。その市民調査に参加し、白井市名内・平塚地区、印西市浦部地区について、水生植物の生育分布は調べた。調査期間は、2007年9月25日~2007年11月12日である。調査対象種は、沈水植物・浮葉植物・浮遊植物・抽水植物(*4)である。

本調査は、現在の水生植物の分布から、水質環境を把握し、今後の水質環境保全へむけて提言することを目的とした。


【結果と考察】

本調査では、抽水植物以外の植物である沈水植物・浮葉植物・浮遊植物は、確認できなかった。また、特定外来生物であるナガエツルノゲイトウは、確認されなかった。抽水植物であるガマ類、ヨシ、マコモ、ショウブ、ミクリについて生育分布を以下に示した。

名内中流域の谷津内では、ミクリの群落(千葉県RDB Cランク)が確認された。

名内・平塚地区ではショウブの生育が確認された。名内の谷頭内と中流域の湿地では、白井市内では数少ないヨシ群落がみられた。これらは、動物たちの棲みかとなる貴重な場所といえる。土水路では、ショウブやマコモがみられ、湿地では、ガマやヨシの群落が確認できた。

現在、農家の後継者不足と農業の効率化により、土水路を三面コンクリート化へと改修する動きがある。生物多様性を向上させるためには、水生植物の生育環境を維持し、河川環境及びその周辺地域を保全し、生息環境をもとにもどしていく物的・人的投与が必要である。


  • *1 手賀沼にガシャモクとマシジミを復活させる会
    「マシジミとガシャモクに関する調査研究報告集」(平成17年3月)p.23~30
  • *2 林 紀男、横林 庸介、星野 保 「手賀沼流域おける水生生物の生息状況」
  • *3 手賀沼水環境保全協議会 (財)千葉県環境財団
    「下手賀沼流域水草類分布本調査報告書」平成19年12月
  • *4 調査対象種
    調査対象種
    沈水植物 ササバモ(D)、ガシャモク(B)、エビモ、ヤナギモ、ツツイトモ(A)、リュウノヒゲモ(B)、ハゴロモモ(要注意外来生物2)、マツモ(C)、オオカナダモ(要注意外来生物1)、コカナダモ(要注意外来生物1)、クロモ(C)、ホザキノフサモ、オオフサモ(特定外来生物)、セキショウモ(C)、コウガイモ(B
    浮葉植物 アサザ(B)、トチカガミ(C)、ヒシ、スイレン
    浮遊植物 ホテイアオイ(要注意外来生物1
    抽水植物 ガマ類(ガマ・コガマ・ヒメガ)、ヨシ、マコモ、ミクリ(C
    その他 ナガエツルノゲイトウ(特定外来生物)


【千葉県レッドデータブック共通評価基準およびカテゴリー】

X 消息不明・絶滅生物

かつては生息・生育が確認されていたにもかかわらず、近年長期にわたって確実な生存情報がなく、千葉県から絶滅した可能性の強い生物。ただし、すでに保護の対象外となったかに見える生物であっても、将来、他の生息・生育地からの再定着や埋土種子の発芽などにより自然回復する可能性もありうるので、かつての生息・生育地については、現存する動植物と共に、その環境の保全に努める必要がある。


A 最重要保護生物

個体数が極めて少ない、生息・生育環境が極めて限られている、生息・生育地のほとんどが環境改変の危機にある、などの状況にある生物。放置すれば近々にも千葉県から絶滅、あるいはそれに近い状態になるおそれがあるもの。このカテゴリーに該当する種の個体数を減少させる影響及び要因は最大限の努力をもって軽減または排除する必要がある。


B 重要保護生物

個体数がかなり少ない、生息・生育環境がかなり限られている、生息・生育地のほとんどで環境改変の可能性がある、などの状況にある生物。放置すれば著しい個体数の減少は避けられず、近い未来カテゴリーAへの移行が必至と考えられるもの。このカテゴリーに該当する種の個体数を減少させる影響及び要因は可能な限り軽減または排除する必要がある。


C 要保護生物

個体数が少ない、生息・生育環境が限られている、生息・生育地の多くで環境改変の可能性がある、などの状況にある生物。放置すれば著しい個体数の減少は避けられず、将来カテゴリーBに移行することが予測されるもの。このカテゴリーに該当する種の個体数を減少させる影響及び要因は最小限にとどめる必要がある。


D 一般保護生物

個体数が少ない、生息・生育環境が限られている、生息・生育地の多くで環境改変の可能性がある、などの状況にある生物。放置すれば個体数の減少は避けられず、自然環境の構成要素としての役割が著しく衰退する可能性があり、将来カテゴリーCに移行することが予測されるもの。このカテゴリーに該当する種の個体数を減少させる影響は可能な限り生じないよう注意する。


特定外来生物

海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物であって、我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物とその性質が異なることにより生態系、人の生命若しくは身体又は農林水産業に係る被害(以下「生態系等に係る被害」という。)を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものとして政令で定めるものの個体等をいう。


要注意外来生物1

被害に係る一定の知見はあり、引き続き特定外来生物等への指定の適否について検討する外来生物。


要注意外来生物2

被害に係る知見が不足しており、引き続き情報の集積に努める外来生物。


図表目録

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図1 名内地区におけるヨシの分布ヨシ
図2 平塚・浦部(印西市)地区におけるヨシの分布ヨシ
図3 名内地区におけるマコモの分布マコモ
図4 平塚・浦部(印西市)地区におけるマコモの分布マコモ
図5 名内地区におけるガマ類の分布ガマ類
図6 平塚・浦部(印西市)地区におけるガマ類の分布ガマ類
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図7 名内地区におけるショウブの分布ショウブ
図8 平塚・浦部(印西市)地区におけるショウブの分布ショウブ
図9 名内地区におけるミクリの分布ミクリ
図10 平塚・浦部(印西市)地区におけるミクリの分布(ミクリ生育分布なし)ミクリ
 
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