ガチャガチャ、クツワムシというキリギリス科の昆虫をそのやかましい鳴き声にちなみ白井の地元ではこう呼んでいます。8月もお盆を過ぎ少し涼しくなった夜を迎える頃、雑木林のここかしこから、ガチャガチャという音が響きわたりそれはもうにぎやかなものでした。そのクツワムシが少なくなつているという話題が持ち上がってすでに10年近くたち千葉県でも神奈川県でも埼玉県でも県の絶滅危惧種にリストアップされるようになりました。昔はどこにでもいたものだ、という古老のお話は身近な普通種が次々と稀少な種に仲間入りしていったことを如実に物語る証言です。しかし、普通にどこにでもいたということはたいていの場合いつどこにいたのか正確な記録がほとんど残されていないということを意味します。自然界で普通にいる生物というものは、その時代時代に人間が自然に働きかけて維持してきた、水田や畑、薪炭林などの里山の環境に生きてきました。今、私たちは豊かな農産物を収穫する農地、水産資源に恵まれた豊かな湖や海洋環境、水資源を守る豊かな森林、そして魅力的な生き物に満ち溢れた世界を取り戻そうとさまざまな努力を重ねています。その努力の一つに身近な生物の現状を記録し減ってしまった原因を突き止め対処するという活動があります。稀少になってしまったかつての普通種、今はまだ普通にいる文字通りの普通種、そういう生物に注目し、かれらがいつ、どこに、どれくらいいたのかを記録に残そう、というのがその活動の第一歩です。

なぜクツワムシは減ってしまったのでしょうか。そして、ウマオイ(同じ時期に鳴きだすキリギリス類)がいまだに健在なのはなぜなのでしょうか。減ってしまった真の原因をつきとめることは容易なことではありません。しかし、私たちは現状をできるだけ正確に記録し将来に残すことで、原因を究明し自然を賢く利用するやり方を学び伝えたいと思っています。このような活動を始め、続けようと思うのは、そのことが自然を持続的に活用し、資源を枯渇させない暮らし、紛争のない暮らしをするささやかな一歩の1つであると信じているからです。


ここに「北総の里山と水辺環境を象徴する指標種」として私たちが選んだ12種の分布を北総生きものマップとしてまとめました。これ以上自然を壊さず、生物を絶滅させない地域社会をつくりあげようという活動、それを私たちは温暖化防止やごみ問題、里山保全や農業支援活動など、北総地域で多彩な活動を展開する多くの仲間と共に北総里山クラブというまとまりに高めてきました。そのスローガンが “里山に囲まれた街づくりをめざして”というものです。私たちはこの生きものマップを一部の好事家を喜ばすためだけの秘密資料にはしたくありません。生き物と触れ合うことのできる住み良い街にしたいと願う市民のための、その願いを共有する市民による身近な環境保全、その第一歩として活用していきたいのです。

ページの先頭へ戻ります