老化を分子レベルで研究しようとすると、生命の設計図であるDNAに注目することがまず考えられます。しかし、設計図だけでは生命は成り立ちません。設計図を基に作られたタンパク質が生命を成り立たせています。DNAや細胞膜を作る脂質も重要ですが、生命活動はタンパク質が適切に機能しなければ成り立たないのです。もし、タンパク質が異常になれば種々の生命活動に悪影響が出ると予想されます。DNAや生体膜脂質が傷害を受けたりあるいは異常になったりしても、その合成・分解や傷害防御・傷害修復に関わる酵素やタンパク質が適切に機能すれば、問題を解決して生命を維持できるでしょう。神経系・免疫系・内分泌系の機能、その他種々の細胞・組織機能の加齢に伴う低下には何らかの形でタンパク質の異常化が重要な役割を果たしているに違いありません。
加齢とともに本来の機能を失ったあるいはそれが低下したタンパク質が増加します。
このようなタンパク質を異常タンパク質といいます。
異常タンパク質は、細胞機能に無益であるばかりでなく、積極的に害をおよぼすこともあります。
例えば、アルツハイマー病患者の脳に蓄積するβアミロイドは、異常タンパク質の一種で神経細胞を殺し、記憶や学習機能などの神経機能を障害します。
また、目のレンズにある透明のタンパク質(クリスタリン)が加齢とともに変性して凝集するとレンズが濁って見にくくなります。これが白内障です。
最近、多くの神経変性疾患(パーキンソン病、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病(プリオン病)など)が構造変化を起こした異常タンパク質の蓄積によって発症することが明らかになりホットな話題になっています。
私たちは、こうした顕著な場合以外にも、細胞機能に有害無益な異常タンパク質が加齢で増えてくるのではないかと考えています。その結果として細胞機能がしだいに劣化してくると思われます。実際、多くの酵素の分子活性(酵素一分子あたりの活性)が加齢で低下することが明らかになっています。異常タンパク質が生じる原因として活性酸素が考えられます(→「05-異常タンパク質はなぜ増えるのか?」参照)。