老化介入・老化制御

活性酸素と老化の関わり

“酒は百薬の長”と活性酸素

 徒然草にも『酒は百薬の長・・・』と書かれているように、いにしえの昔から酒は健康に良いと言われてきました。酒飲みの口実のようにも受け取られていますが、適度なアルコール摂取は種々の疾患のリスクを減らすということが疫学的にも示されていますから(図34-1)、そこには何らかの疾患予防の仕組みがあると考えられます。摂取量と死亡リスクの間にはJ字型あるいはU字型の関係があり、アルコールにホルミシス様作用があることが分かります。

図34-1 日本人男性のアルコール摂取量と死亡率

 私は以前から、アルコールが代謝されてできるアセトアルデヒドがタンパク質を修飾してタンパク質分解系を活性化するのが仕組みの一つではないかと考えて、大学院生に調べてもらったことがありますが、結論を出すまでにはいたりませんでした。アセトアルデヒドはDNAを修飾し発がんリスクを高めると言われていますから、"百薬の長"の仕組みではないかもしれません(*)。Wangらは、その仕組みにかかわるかもしれない実験結果を報告しています(Wang et al. Free Radical Biol Med 43: 1048-1060, 2007)。

 彼らはスナネズミの脳の虚血再灌流傷害モデル(関連の雑文「本HPの徒然日記:恐竜の寿命・ゴジラの死因(2008年7月22日)を参照」を使って、アルコール摂取の影響を調べています。スナネズミは頸部の血管を縛って一時的に脳への血流を止めた後、再開すると神経細胞死が起こるので脳梗塞の病態モデルに使われています。この場合、あらかじめネズミにアルコールを摂取させておくと脳細胞の酸化傷害が軽減しました(図34-2)。このとき活性酸素を産生するNADPH酸化酵素反応の阻害剤を与えておくとこの軽減作用が減弱したというのです。これはアルコール摂取によってこの酵素を介して産生された活性酸素が虚血再灌流傷害を抑えることに役立っていたことを示唆しています。適度なアルコールが"百薬の長"である仕組みの一つかもしれません。興味深いのは、ここでも活性酸素が有益な働きをしているようだ、ということです。

図34-2 虚血再還流によるスナネズミ脳(海馬)酸化傷害のエタノール摂取による軽減メカニズム

 もちろんアルコール摂取は種々の生体反応を起こしますし、よく知られているように運動の場合と同様に過度は有害ですから、"ほどほど"が大切であることは言うまでもありません。徒然草にも『、・・・萬の病は酒よりこそ起れ』とあります。ともあれ、アルコールもホルミシス作用をもつ物質の一つといえるでしょう。

(*)Sanoはアルデヒド、とりわけ過酸化脂質に由来する高反応性のアルデヒド、4-ヒドロキシノネナール (4-hydroxy-2-nonenal, 4-HNE) 、が酸化ストレスに対する心筋保護作用もつと興味深い報告をしている (M Sano: Cardiacprotection by hormetic response to aldehyde Circ J 74: 74: 1787-1793, 2010)。 4-HNEはタンパク質や核酸を修飾して有害とされていますから、適度な産生が心筋梗塞を予防する効果があるとなるとアルデヒドにもホルミシス作用があることになる。