老化介入・老化制御

活性酸素と老化の関わり

“抗酸化”物質(anti-oxidant) は“酸化促進”物質 (pro-oxidant)でもある

 VC, VE, カテキンなどのポリフェノールは抗酸化作用があるとして、アンチエイジングサプリメントとして人気が高い物質です。抗酸化能力の高さや、一錠にレモン何十個分のVCが含まれているなどといったことが宣伝されたりします。これらの抗酸化物質は、一方で活性酸素を発生する酸化促進物質にもなることは一般にはあまり知られていません。例えばお茶の成分で抗酸化作用があるカテキンはスーパーオキシドを経て過酸化水素を産生し、さらに過酸化水素は反応性が極めて高いヒドロキシラジカルを発生します(図35-2)。図とその説明は少々専門的過ぎるかもしれませんから、カテキンがDNA酸化傷害を起こしうること(A)、抗酸化酵素SODを誘導合成すること(B)だけでも見て下さい。抗酸化酵素が誘導されるというのは、活性酸素が発生している証拠でもあります。

図35-2 カテキンによるDNA酸化傷害(A)と抗酸化酵素の誘導(B)

 したがって"抗酸化"物質は抗酸化作用ではなくて活性酸素の発生を通じて、細胞の抗酸化防御系を活性化して間接的に抗酸化作用を発揮している可能性を示唆しています。適度な酸化ストレス誘導作用をもつ物質が生体に備わった抗酸化力を高めて、結果として酸化を抑えることになるというわけです。このことは一方で、大量に摂取した抗酸化物質が状況次第で酸化を促進することもあることを示唆しています(VCの酸化促進作用に関する図27およびカロチノイドに関する図35-1を参照)。図31‐1に示した高濃度カロチノイドの有害作用は1990年代にアメリカで行われたβカロチンによる肺がん高リスク者(喫煙者、アスベスト暴露者)に対する介入研究が肺がんその他による死亡者増加のために途中で中止されたことを思い出させます(GE Goodman et al. J Natl Cancer Inst 96: 1743-1750, 2004)。

 抗酸化物質が濃度と状況次第で酸化促進物質にもなることから、抗酸化物質も活性酸素を介したホルミシス作用をもつと言えるかもしれません。

 

 

 

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