MyLibrary
ログイン

診療ガイドライン情報ポータル

  • 更新日:2021/05/20

診療ガイドラインとは

定義

診療ガイドライン自体は古くから存在していますが, 現在主流となっているのは, 「エビデンスに基づいた診療ガイドライン」です。数十人から数万人単位の患者を対象に, 特定の薬を飲んだ人と飲まない人で比較し,薬効を確認するなどの臨床試験(特にランダム化比較試験)の結果などから得られるエビデンスを吟味・評価し,その結果に基づいてどんな治療をすべきか,すべきでないかなどを勧告するこの診療ガイドラインの作成方法は,過去の診療ガイドラインの多くが著名な専門家の意見交換や経験によって作成されていたのに比べ,信頼性が高いと言われています。
日本医療機能評価機構(Minds)では,診療ガイドラインは以下のように定義されています。

健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して, 最適と考えられる推奨を提示する文書。1)

また近年,専門医,一般医向けに加え,患者の方やそのご家族など広く一般に向けた診療ガイドラインを作成する学会が増えてきました。一般向け診療ガイドラインは,医師向けの診療ガイドラインを要約し,やさしい言葉,図や絵を使って説明されています。

診療ガイドラインを活用する際に注意すべきことは,ガイドラインはあくまでも標準的な指針で,すべての患者に画一的な診療を強制するものではないという点です。

日本における診療ガイドラインの成り立ち

厚生省(当時)の私的検討会が出した「医療技術評価推進検討会報告書」2)(1999年3月)で『医療技術評価の成果の臨床現場での利用としてEBMが必要であり,その普及・推進の一方策として診療ガイドラインの策定が必要』と報告されました。そして患者,家族の関心が高い『治療』に関するガイドラインがまず取り組むべき対象とされ,対象疾患の優性順位が以下のように決定しました。

 1.本態性高血圧 2.糖尿病 3.喘息 4.虚血性心疾患 5.白内障 6.慢性関節リウマチ 7.脳梗塞 8.腰痛症 9.胃潰瘍 10.くも膜下出血およびその他の脳出血 11.アレルギー性鼻炎 12.アルコール依存症 13.肺結核 14.アトピー性皮膚炎 15.胃の悪性新生物・・・・ 47.軟部組織障害

この優先順位をもとに,厚生科学研究費による支援の下で関連学会による次の23のガイドラインが作成されました。

 平成11年度開始:本態性高血圧症,糖尿病,喘息,急性心筋梗塞,前立腺肥大症及び女性尿失禁
 平成12年度開始:白内障,胃潰瘍,クモ膜下出血,腰痛症,アレルギー性鼻炎,脳梗塞,関節リウマチ
 平成13年度開始:肺がん,乳がん,胃がん,アルツハイマー病
 平成14年度開始:脳出血,腰椎椎間板ヘルニア,大腿骨頚部骨折,肝がん
 平成15年度開始:急性胆道炎,尿路結石症,前立腺がん

この後,各学会でガイドライン作成が進み,学会のHP,機関誌,単行書などで続々と発表されています。

診療ガイドラインの活用方法

診療の現場で
診療ガイドラインは,診療の現場で標準的な治療を知るために活用されています。
医療現場が診療ガイドラインを治療の指針とすることで,大きな病院から小さな診療所まで,患者さんがどこの病院を受診しても,一定の水準の治療が受けられるということも利点の一つとして挙げられます。

患者さんの意思決定に
診療ガイドラインは,エビデンスをもとに,治療方法などを「益」と「害」のバランスを重視して記載しています。患者さんの重視したい点をもとに治療方針を決めていくときに,参考資料として使うことができます。
近年は患者さん向けにわかりやすい言葉で書かれた「患者向け診療ガイドライン」も多くの疾患で作成されています。

参考文献

1) Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会. Minds診療ガイドライン作成マニュアル 2020 ver.3.0[internet]. https://minds.jcqhc.or.jp/s/manual_2020_3_0 [accessed 2021-05-17]
2) 厚生労働省. 「医療技術評価推進検討会」報告書について[internet]. https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1103/h0323-1_10.html [accessed 2020-06-01]

診療ガイドラインを使う

診療ガイドラインを探す

東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース
「東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース」サイトは,東邦大学医学メディアセンターと特定非営利活動法人 医学中央雑誌刊行会が共同で主宰するデータベースサイトです。
収載対象は,東邦大学および医中誌がそれぞれの基準で収集した診療ガイドライン情報です。東邦大学は主に単行書として出版された診療ガイドライン,医中誌は主に雑誌に掲載された診療ガイドラインの情報を収集しています。詳細な基準については,「このサイトについて」をご参照ください。

Minds ガイドラインライブラリ
公益財団法人日本医療機能評価機構(Minds)が運営しているウェブサイトで,厚生労働省の委託事業として,日本で公開された診療ガイドラインを評価し,公開しています。
患者向けの解説や,診療ガイドラインの利用・作成に関する情報の提供,学会が行う診療ガイドラインの作成支援なども行われています。

診療ガイドラインの読み方

クリニカルクエスチョン
クリニカルクエスチョンとは,診療の現場においてよく遭遇すると思われる疑問や課題のことです。
診療ガイドラインには,教科書形式で書かれたものと,クリニカルクエスチョン形式で書かれたものがあります。クリニカルクエスチョン形式で作成された診療ガイドラインは,診療ガイドラインのテーマとなる疾患について,クリニカルクエスチョンを設定し,それに関する文献を網羅的に検索して回答を作成し,その回答から推奨が示されるものです。
近年は,クリニカルクエスチョン形式で作成されることが多くなりました。
クリニカルクエスチョン形式の利点は,具体的な状況に沿って課題が設定され推奨が付けられているため,必要な情報が見つけやすいことです。

推奨
推奨とは,”臨床で解決したい問題に対して,「治療を実施することを推奨する」か「治療を実施しないことを推奨する」という判断,あるいは「治療法 A を推奨する」か「治療法 B を推奨する」という判断を示し,さらに,推奨の強さを「強い推奨」と「弱い推奨(条件付き推奨)」という形で示す文章”1)のことです。
クリニカルクエスチョンの検索から得られたエビデンスを評価し,そのクエスチョンに対する判断と確信度の強さをわかりやすく示しています。
推奨グレードや推奨度の記号が付けられていることが多いですが,診療ガイドラインごとにグレードの付け方が異なっているため,前書きなどを参照する必要があります。

参考文献

1) 日本医療機能評価機構 EBM普及推進事業(Minds)患者・市民専門部会. 第1部 診療ガイドラインとは[internet]. https://minds.jcqhc.or.jp/s/user_info_start [accessed 2020-06-01]

診療ガイドラインの作成

作成方法の概要(Minds方式)

質の高い「エビデンスに基づく診療ガイドライン」を作るための指針として作られているのが『Minds診療ガイドライン作成マニュアル 2020(以下 作成マニュアル)』1)です。
“国際的に現時点で公開されている GRADE(The Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)system,The Cochrane Collaboration,AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality’s),Oxford EBM center ほかが提案する方法を参考に,日本における診療ガイドライン作成に望ましいと考えられる方法”が提案されており,次の内容で構成されています。

 第1章 診療ガイドライン総論
 第2章 準備
 第3章 スコープ
 第4章 システマティックレビュー
 第5章 医療経済評価
 第6章 推奨
 第7章 公開に向けた最終調整
 第8章 診療ガイドライン公開後の取り組み

診療ガイドラインのための文献検索

診療ガイドラインのための文献検索は,スコープ(計画書)2)作成時に,現状把握のために先行する診療ガイドライン等を検索するスコーピングサーチ(スコープサーチ)と,クリニカルクエスチョン(Clinical Question:CQ)単位でのシステマティックレビューのための文献検索の大きく2つに分けられます。
ここでは主に後者のための文献検索について,検索担当者(図書館員)の視点から紹介します。

データベースの選択

システマティックレビューのための文献検索に日本でよく用いられるデータベースを以下に示しました。

  • PubMed(MEDLINE)
    アメリカの国立医学図書館が作成している,国際的な医学雑誌文献情報を収録したデータベースです。会議録は基本的に収録されません。1つ1つの文献には[ARTICLE TYPE(Publication type)] として “Randomized Controlled Trial”, “Systematic Review” などの情報が付与されています。PubMedについて詳しくはHOW TO ページをご覧ください。
  • 医中誌Web
    NPO法人 医中誌刊行会が作成している,日本の医学雑誌文献情報を収録したデータベースです。収録された文献の6割以上が会議録(学会抄録)のため,文献に研究デザインとして付与された“ランダム化比較試験”, “メタアナリシス” などのタグを活用して検索できます。医中誌Webについて詳しくはHOW TO ページをご覧ください。
  • The Cochrane Library
    コクラン共同計画作成のデータベースで,Cochrane Review Groupが作成した「Cochrane Database of Systematic Reviews」と,ランダム化比較試験,比較臨床試験文献を中心とした「Cochrane Central Register Controlled Trials」がメインとなっています。The Cochrane Library について詳しくはHOW TO ページをご覧ください。

研究デザインを意識した文献検索

文献検索を始める前に,どの研究デザインの文献をエビデンスとするか診療ガイドライン作成グループで採用基準を持つことが重要であり,スコープに記載された上で検索が実行されます2)。また推奨判断の基となった文献について,その研究デザインが診療ガイドラインに記載されることが期待されています3)4)
PubMedやThe Cochrane Library,医中誌Webでは研究デザインを意識した文献検索を実行することができます。PubMedでは,左のサイドバー ”ARTICLE TYPE” で研究デザインを絞ることができます(図1)。医中誌Webでは,「絞り込み実行」画面で研究デザインを選ぶことができます(図2)。The Cochrane Libraryでは,タブを切り替えて研究デザインを選ぶことができます。“Cochrane Reviews”タブはCochrane Review Groupが作成した「Cochrane Database of Systematic Reviews」,”Trials”タブはPubMed/MEDLINEやEMBASEなどからランダム化比較試験,比較臨床試験文献を収録した「Cochrane Central Register Controlled Trials」です(図3)。


     図1 PubMed


     図2 医中誌Web


     図3 The Cochrane Library

検索の記録と検索式

検索担当者は,CQごと,データベースごとに文献検索式,検索対象期間,検索日を記録し,診療ガイドラインに記載します3)
また,検索に使用した検索式は,診療ガイドラインに記載する必要があります。そうすることによって,同じ検索式を使用すれば同じ文献を検索できることが担保されます。 検索式とは,たとえば図4,図55)のように使用したキーワードや論理演算子(AND, OR, NOT)で記述されます。


     図4 PubMedで検索を実行した検索式の例5)


     図5 医中誌Webで検索を実行した検索式の例5)

適合率と再現率

使用する検索式によって,検索される文献数は大きく変わってきます。必要なものだけを検索しようと検索式を作成すると検索漏れが多くなり(適合率が高い検索),検索漏れのないように検索式を作成すると必要のない文献まで検索してしまいます(再現率が高い検索)。このバランスを見ながら検索式を作成します。

情報検索専門家との共同作業

作成マニュアルでは検索式を作成するのに“1名は図書館員など医学文献検索専門家などであることが望ましい1)”としており,AGREEⅡ4)でも図書館情報学専門家などの方法論の専門家が含まれているかを評価しています。
日本では診療ガイドラインを作成する方が所属する先の医学系図書館員やNPO法人日本医学図書館協会6)に依頼する例があります。日本医学図書館協会では図書館員のための文献検索研修も行っており,図書館員は依頼者とコミュニケーションをとりながら,上記のようなことに注意して文献を検索します。

診療ガイドラインのための文献検索例

文献検索の実施を含め,診療ガイドライン作成経験が書かれた文献7)8)もありますので,こちらもご参照ください。

診療ガイドラインの評価

現在,ガイドラインの評価を目的として,広く用いられているツールに「ガイドラインの研究・評価用チェックリスト: Appraisal of Guidelines for Research & Evaluation (AGREE) instrument 」があります。これは英国で始まった活動から,国際的プロジェクトになった「AGREE共同計画」のなかで開発されました。

  • AGREE Enterprise Website
    AGREE共同計画のWebサイトです。AGREEⅡのチェックリストなどをダウンロードできます。
  • AGREEⅡ(オリジナル版)
    AGREEⅡは, The AGREE Next Steps Consortiumが開発した, 6領域23項目と全体評価2項目,合計25項目から成るガイドライン評価ツールです。2017年(初版は2003年)に更新され, AGREE Enterprise Websiteにて公開されています。
  • AGREEⅡ日本語訳(2016年7月公開)
    AGREEⅡ(オリジナル版)の日本語訳で,日本医療機能評価機構(Minds) EBM 医療情報部が作成しています。

参考文献

1) Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会. Minds診療ガイドライン作成マニュアル 2020 ver.3.0[internet]. https://minds.jcqhc.or.jp/s/manual_2020_3_0 [accessed 2021-05-17]
2) 小島原典子ほか. PICOから始める医学文献検索のすすめ. 東京:南江堂;2019.
3) 相原守夫著. 診療ガイドラインのためのGRADEシステム. 第3版. 東京:中外医学社;2018.
4) The AGREE Next Steps Consortium. AGREEⅡInstrument. [internet]. https://www.agreetrust.org/resource-centre/agree-ii/[accessed 2020-05-28]
5) 日本集中治療医学会, 日本呼吸療法医学会, 日本呼吸器学会. ARDS診療ガイドライン2016 パート2 詳細版[internet]. https://www.jsicm.org/ARDSGL/ARDSGL_part2ALL.pdf [accessed 2020-05-28]
6) 日本医学図書館協会. 診療ガイドライン作成支援サービス(文献検索)受託事業のご案内[internet]. https://jmla1927.org/committee.php[accessed 2021-05-19]
7) 樋室伸顕, 大西浩文. 循環器領域での診療ガイドライン作成経験 システマティックレビューチームの役割 : 診療ガイドラインの読み方ガイダンス. 泌尿器外科. 2019;32(7):927-931.
8) 二村昌樹, 岡藤郁夫, 山本貴和子, 荒川浩一. 診療ガイドラインにおけるシステマティックレビューの方法. 日本小児アレルギー学会誌. 2017;31(1):89-95.

東邦大学での取り組み

東邦大学では,継続して診療ガイドラインの積極的な受け入れを行っています。2001年3月からは,収集した診療ガイドライン情報をリスト化し,ホームページ上で公開してきました。2010年11月にはリストのデータベース化を行いました。これらのツールは,国内診療ガイドラインの情報源として広く利用されてきました。
そして2014年3月20日,東邦大学は日本の医学・医療における情報サービスの発展に資することを目的に,医中誌刊行会と,従来,それぞれが個別に作成・提供していた診療ガイドライン情報データベースを一本化し,「東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース」として,一般に無料公開する業務連携基本合意書を締結しました。
以降,このデータベースの評価を行い,また医中誌刊行会と協議を重ねながら診療ガイドライン情報の提供を行っています。


【医学メディアセンタースタッフによる関連著作リスト】