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白井市の自然環境調査

 私たちは、縁あって、千葉県白井市内の自然環境を調査し、自然環境保全に向けた行動計画を市に提案するという、非常に責任ある仕事を引き受ける機会をもちました。自然環境の把握には膨大な事実の積み重ねと継続的観察が不可欠です。また、日本の土地制度、税制によって、土地には私的・公的な所有、さまざまな権利が認められています。そのため、私たちが将来に残していきたいと想う自然を実際に残していくためには行政的・社会的活動が不可欠です。そうした関門をくぐり抜け、白井市は新しい千年紀の始まりによい決断をした、豊かな田園都市の礎を築いたと、後々の人々に認めてもらえるように仕事をしていかなければなりません。

白井市

白井市 白井市は千葉県北西部、東経140°03’北緯35°47’に位置し、総面積3541ha、人口約5万人の中小都市です。市域の大部分は北総台地上に展開し、土地利用としては畑や梨園が多く、北部には2つの工業団地(合計98ha)、南部には住宅地が広い面積を占め、市街化区域は総計848ha、市域全体の23.9%を占めています。低地に目をむけると、手賀沼水系の金山落し、印旛沼水系の神崎川など、河川周辺の低地帯では水田耕作が行われていますが、台地に入り組んだ谷津内での水田、いわゆる谷津田での耕作はほんど放棄されています。

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生物多様性の保全

白井市の生物たち 市民がその健康・安全・福祉を十分に享受した生活を送るうえで、居住地内に存在する自然環境はこれを保証する貴重な自然資源です。千葉県の北総地域では、縄文時代からの人間活動によって原生的な自然環境(手つかずの自然)は、そのほとんどが消滅しています。しかし、水田、ため池、雑木林、入り会い共有地の草地など、その地で営まれる生業(農林業や牧畜)に伴う働きかけによって、人里の身近な自然環境が長く維持されてきたという歴史があります。こうした営為によって、地域の歴史・文化と分かちがたい自然景観を作り上げてきました。しかしながら、このように人々の生活そのものによって維持されてきた自然環境や景観は、人間社会の変化に伴って変化する宿命を負っています。社会構造の変化は、大規模な土地造成や農業形態の変化、外国産動植物の意図的または無意識な導入などを通して身近な自然を消滅の危機に追いやりつつあるのです。

 人里の身近な自然は、日本固有の生物が生息する立地としての価値を有するだけでなく、私たち地域住民にとっては別の意義があります。それは、子供たちが自然とふれあい原体験を形成する場であり、微気象条件の緩和地や災害時の安全拠点として計り知れない価値を有しています。自然は、それが原生的であれ、二次的であれ、私たちにとって必要不可欠な存在なのです。

 かつて無配慮に自然を開発・破壊してきたことの反省にたち、日本政府は自然の保全と再生のための基本計画として、平成14年3月に「新生物多様性国家戦略」を策定しました。生物多様性の保全とその持続的利用という理念を行動目標として具体化し、野生生物の保護管理、生物資源の持続的利用、自然とのふれあいといった横断的施策、さらに基盤的施策として生物多様性に関する基礎調査や情報整備、人材育成、経済措置、国際的取り組みを行うとしています。こうした国家戦略を受け、都道府県や市町村においても、それぞれの立地環境に応じた生物多様性保全とその持続的利用に関する施策の展開が計られようとしているのです。

 自然資源を将来にわたって健全に保全し、子孫に伝えていくために、地方自治体やそこに居住する市民が行うべきことは、まず自然環境の現況を的確に把握することです。その上で保全すべき環境を明らかにし、保全のための具体的な計画を立て、計画を実行し、保全を実現しなければなりません。

自然環境調査実施フロー

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自然の豊かさを引き継ぐために

 平成14年度の予備調査を踏まえて、16年度からは重点調査地域を中心に本格的な調査が始まりました。同時に市民調査員の養成講座も始まり、市内の自然環境を市民自ら調査し、長く監視するための体制が整備されようとしています。

 数百、数千、数万種に及ぶ生物の目録を正確に作り上げるためには、様々な生物群の分類に精通した専門調査員の力が必要です。だれにでもできる仕事ではありません。しかし、それだけの人材に長期間の環境調査を依頼できるほどの余裕は小さな自治体にはあまりありません。では、市民調査員の養成はそうした不足を安価に補う手段なのでしょうか。そうではありません。市民調査員の育成は、地域の人々が主体的に郷土の自然を守っていくために、避けて通れない課題なのです。未来に残したい自然とは、街作りの一環として市民が選ぶものであり、その実現に向けて行政とともに歩まなければ叶えがたい課題なのです。そのためにも、地域毎に自然を科学的に調査することのできる市民が育って行かなければなりません。地域に伝統芸能が文化として伝承されてきたように、地域の自然を科学的に調査し、それを街作りに生かすことのできる文化を白井に根付かせたいものです。

 市民調査員養成講座で配布した調査の手引きをここに公開いたします。 → 白井市の環境調査INDEX

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