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生物多様性

生物の系統進化:Phylogeny and Evolution

 生物学は2つの原理にのっとって構築されています。1つは、全ての生命活動は化学的、物理(物質)的な基盤の上に成り立っているということ、2つめは全ての生物とその特徴は進化によって形作られている、ということです。したがって、進化学はわたしたちが生物とその特徴を理解するための基本的な枠組みを与えてくれるのです。進化を考えない生物学はあり得ないのです。生物の系統進化を学ぶにあたって、私たちがもっとも信頼する教科書(Evolutionary Biology, D.J.Futuyma, 3d edition 1998)から、進化学がどのように構成されているのか、3つのパートの前書きを訳出しました。これによって、生物の系統を知ることの意味と意義を理解してほしいと思います。

進化の生物学 Evolutionary Biology, D.J.Futuyma, 3d edition 1998

Part1 進化を研究する上での重要な基礎固め

第1章

第1章では、進化生物学の諸分野を紹介します。進化生物学において、答えを見つけることが困難な疑問とはどういうものなのか?進化生物学の分野ではどんな課題が研究されているのか?そして、進化を研究することは私たちの社会や生活にどんな意味をもっているか?といったことです。さらに、数世紀もの永きにわたって受け継がれてきた西洋の思考法がダーウィンの進化理論によってどのように変貌を遂げて行ったのか、ということについても記述します。私たちが進化生物学から学ぶ重要なことは、生物の特徴というものは、すべからくその生物が辿った歴史に照らしてみなければ十分に理解したことにはならない、ということです。同じことは、人間の営みのどんな分野にもあてはまります。

第2章

2章では、進化的思考の移り変わりを概観します。ここで言いたいことは、ダーウィンとその後継者たちが力説してきた初期の進化論とはどういうものであったのか、現在の私たちが信じている進化理論には誤ったものもあること、現代的な進化理論の枠組みとはどういうもので、さらに進化学的研究は現在どの方向に進んでいるのか、といったことです。それによって、私たちは過去50年あまりの間に形作られてきた進化学の基本的原理や、現代的な進化理論や実際の研究の基礎となる原理、の大事なポイントをつかみとることができます。全ての生物学は進化生物学に収束していきます。生物学の全ての専門分野から得た知識は、進化の理解に欠かすことのできないものです。逆に、進化的解析は生物学全ての分野を光り輝かせてくれます。それゆえ、生物学全ての分野におけるどんな学問的バックグランドも、進化の研究に役立てることができます。

第3章・第4章

3章と4章で、遺伝学、発生学、生態学に焦点を絞って必要な予備知識を整理しましたが、この3分野の知識と情報は、進化を研究するうえで役に立つばかりでなく、生物学にとって必要不可欠なものです。講義では遺伝学と発生学の章を改めて扱うことはありませんが、内容の項目立てをしておきますので、必要に応じて復習してください。

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Part2 進化のパタンと歴史

パート2では、生物多様性の主要なパタン、そうしたパタンを生み出した進化の歴史、この歴史を確固たる科学的事実とするために用いられてきた方法と証拠、そして進化の歴史的現実性を示す多くの証拠について説明します。大きくくくれば、この章で扱うのは大進化(macroevolution)、つまり高次分類群の起原とその特徴、分布パタン、を長い生命史の中に位置づけることになります。大進化のパタンを生み出した進化の因果律を理解するために、私たちは集団の内部、集団間、そして種の間で起きている遺伝学的プロセスを詳しく調べなければなりませんが、このことはパート3(9から16章)で扱います。その後で再び、大進化のテーマに戻り、そのしくみについて新しい観点で調べて行きます。
生物多様性の全ての解析と進化による多様性創出は、体系学に依拠しています。体系学とは、生物学の1分野で生物の多彩さと多様性のパタンを記述するものです。体系学の課題の1つに、種を発見し、ほかの種と区別し、命名し、上位分類群への所属を決めていくことがあげられます。もう1つの課題が、5章で主に扱うことで、種の血統または系統を推定することです。種の系統学的相互関係を決めることによって、私たちは種の系統が進化的に枝分かれしてきた過程を記述します。そうした解析によって、生物の特徴が祖先から子孫へとたどるどこかの段階で変化するタイミングを推定することができます。
系統発生的解析は、分岐進化(cladogenesis:枝分かれ)と向上進化(anagenesis:単一系統内での進化的変化)という進化的歴史の主要な側面、の両方を明らかにしていくことです。この作業を行う過程において、体系学者は進化的変化と多様化の主要なパタンの多くを記載してきました。彼らの仕事によって、形態的特徴からDNAの塩基配列にいたる多くの特徴がどのように進化していったのかを知ることができるようになり、進化を実際に起きたこととして認識するための数々の証拠があげられました。

第5章

5章では、系統学の方法論を詳しく説明した上で、体系学者が明らかにしてきた進化パタンのいくつかとその証拠を解説します。

第6章

6章では、化石に話題を転じます。化石記録から、系統内での進化的変化の直接的証拠、その特徴、変化の速度、生物学的多様性の歴史を知ることができます。章の大部分は、さまざまな進化系統(生物群)の形態学的進化のパタン、化石記録によって明らかにされた系統間の進化速度に見られる著しい違い、祖先と子孫的形態の中間段階が見つかることなどを、近縁な種の間や脊椎動物の目のように高次分類群の比較によって、説明します。この章ではたいていの読者が期待するよりもさらに詳細な事例研究を紹介します。詳しい紹介をするのは、懐疑論者を説得することになるかもしれない人たちのために、十分な情報を提供するためなのです。化石記録は進化の証拠を実に豊富にもたらしてくれます。

第7章

7章では、地球自体の変化を背景にして、進化の歴史における主要な出来事を概観し、生物の主要なグループの起源、消滅、類縁関係と、過去の各時代における生物の横顔を紹介します。この章には2つの機能を持たせました。1つは生物学的多様性に関心のある人であれば、生命の歴史において必ず知っておいてほしい重要な出来事を紹介すること、そして主要な分類群の歴史におきた出来事に関する事例集としての機能をもたせることです。この理由のため、7章では大半の読者にとっては覚えておかなくてもよいほどの詳しい資料が掲載されています。
体系学と古生物学は、生物地理学、すなわち生物の地理的分布の研究、の非常に重要な基礎となります。

第8章

8章で紹介する地理的なパタンは、ダーウィンが手にした進化の証拠の中ではもっとも重要な情報源です。なぜある生物がいまあるような地理的分布を示すことになったのかを知ることは、体系学や古生物学ばかりでなく、生態学が貢献できる学問的挑戦といえるでしょう。8章では、生物地理学的研究の方法論と興味深い分布パタンのいくつかについて紹介します。

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Part3 集団と種の進化過程 Evolutionary Processes in Populations and Species

多くの、そして恐らく大半の表現形質、形態、生理、行動は、それらが適応的であるために進化してきたのです。生物のすばらしい適応は、ダーウィンをして、“我々の賛美心を刺激するもの”と言わしめました。適応は自然選択によって進化した特徴ですが、なぜならば、適応とはそもそもその特徴を有する個体の生存と繁殖を高める機能を持っているからなのです。したがって、多様な振る舞いをみせる自然選択は、我々が進化の因果律を研究する上での中心的なテーマでなければなりません。
私たちは自然選択をある程度詳しく調べることになります。しかし、自然選択を十分に理解することができるようになる前に、私たちは基礎知識を学ばなければなりません。適応進化は遺伝的変異に作用する自然選択によって起きるので、私たちは遺伝的変異をどのように記述し、測定するのかを理解しなければなりません。生物の自然集団に遺伝的変異があるのかどうか、あるとすればどれくらいあるのか、ということを知らなければならないのです。このような情報によって、ダーウィンの時代と現代の進化認識の間に非常に大きな隔たりがあることに気づきます。さらに、私たちは、進化を現代の言葉で記述するために、対立遺伝子頻度、遺伝子型頻度、遺伝的分散、遺伝率などの概念を熟知しておかなければなりません。

第10章

10章では、こうした遺伝的変異がどのようにして生じたのかを理解する必要があります。そのためには、突然変異と組み替えを詳しく見ることになりますが、それは究極的にみれば全ての進化がこの過程に依存しているからなのです。全ての進化が適応的であることを前もって仮定することはできません。私たちが観察した結果を、それが適応的でなかった場合にはどうなっていたのかという帰無仮説に照らし合わせて検証する必要があるからです。

第11章

11章で、自然選択以外にも進化をもたらす仕組みが他にもあることを知ることになるでしょう。自然選択と違って、それは純粋に機会的(確率的)過程です。この過程、すなわちランダムな遺伝的浮動、はある種の帰無仮説として使えます。つまり、遺伝的浮動は、突然変異に自然選択が作用しなかった場合に進化がどのように進行するのかを教えてくれるのです。生物の形質のいくつか、特に分子レベルの特徴は、遺伝的浮動によって進化し、その進化は適応とは言えないことが多いことを知るでしょう。遺伝的浮動について解析する過程を通じて、私たちは集団の構造に関する概念に出会うことになりますが、この概念は適応そして種分化に対する私たちの理解を大いに助けてくれます。

第12章−16章

12章でまず自然選択の意味とそれが作用する階層と様式を調べていきます。13章、14章において、自然選択を遺伝学と個体群構造と一緒に扱うことで、種内の進化に関する包括的な理論を作ります。この理論は、15,16章で扱う新種の起源、適応進化と種よりも上位レベルでの進化を理解する上での基礎となるものです。

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