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生物相調査とDNAバーコード

 生物種の識別には、伝統的に生殖器の形や鱗の配列や数のような外部形態が用いられてきたが、バクテリアやウイルスのような微生物では、DNAの塩基配列を読み取って種に固有な配列を基に識別する方法が急速に普及している。この手法がこれまで形態的特徴に基づいて識別されていた動植物にも適用され始めた。この手法によれば、形態では識別できない種を区別し、生物の多様性をより確実に把握できるという。これが、DNAバーコードプロジェクトの基本的な考えである。すでに、カナダの University of GuelphのPaul Hebertが、北米の鳥260種のDNA barcodesを読みとり、DNAバーコードプロジェクトを強力に進めている。
 東邦大学理学部では、(財)電力中央研究所環境科学研究所の協力を得て地域の生物相調査や野外実習で得られた標本から、DNAバーコードプロジェクトのための塩基配列解読に取り組み始めました。

 第53回日本生態学会において、エンドユーザからみたDNAバーコーデイング−生態学的有用性についての検討−、というテーマの自由集会(2006年3月27日)を開催し、以下の3名の演者による講演をいただきました。DNAバーコードに関するプロジェクトは、カナダの研究グループが先頭を走っていますが(http://www.barcodinglife.com/、http://barcoding.si.edu/DNABarCoding.htm、http://www.barcodinglife.org/)、日本でも国立科学博物館で本格的な検討が始まりました。
 世界の趨勢に詳しい千葉県立中央博物館の宮正樹上席研究員によれば、うかつに手を出すと外国勢に骨までしゃぶりつくされる、と忠告を受けましたが、看過するわけにも行かない流れがあることも確かです。1種の生物が持つ遺伝情報を解読しつくすゲノムプロジェクトに対して、DNAバーコードは短いながら種特異的なDNAの配列を全ての生物種から読み取ってしまおうという野心的な企画なのです。

 生態学の進展に大きな貢献が期待されるこのプロジェクトに対しては、文字通りエンドユーザとしてその有用性を唱え、支援の声を上げるだけでなく、地域の生物相調査などさまざまな機会を生かして、専門化による形態的種同定がなされた標本からのDNA抽出と配列解読を行い、データベース構築に貢献したいと思います。

企画者あいさつ (長谷川雅美・梨本眞)

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第53回日本生態学会自由集会(2006年3月27日開催)
DNAバーコーデイング−生態学的有用性についての検討−

演題

  • 1)松木吏弓(電力中央研究所):植物rbcL遺伝子データベースの構築と植食性哺乳類の食性解析への適用事例
  • 2)吉丸博志(森林総研生態遺伝研究室):日本産木本植物のDNAバーコードシステム構築を目指して
  • 3)宮正樹(千葉県立中央博物館):DNAバーコードプロジェクトの世界的趨勢
  • 4)今後の展開(自由討論)

(財)電力中央研究所と東邦大学理学部の共同研究

高度保存領域を汎用プライマーとして用いた直翅目昆虫のミトコンドリアDNACOI遺伝子のデータベース作成とその生態学的応用

1)内容

 (財)電力中央研究所が進めている生態系解析への分子データの適用という研究プロジェクトに、同研究所と連携大学院の契約を交わしている東邦大学理学部が参画し、その成果を生物多様性学習プログラムの開発に生かすことを目的とする。
 日本における分子データの生態系解析への適用としては、(財)電力中央研究所によって、草食性哺乳類の食性解析を目的として陸上植物数百種の葉緑体遺伝子(rbcL)の種特異的塩基配列のデータベース作成が行われ、それを利用した先駆的解析が進められている。

 この研究を進める上での鍵は、種特異的塩基配列のデータベース作成である。
 肉食性動物の食性解析には、主要な餌生物の1つである昆虫の塩基配列に関する網羅的なデータベースが必要となる。食性解析には、種特異的な塩基配列を効率よく用いるために、可能な限り短い配列を増幅、解読するためのPCRプライマーの設計が鍵を握っている。

 塩基配列データを効率よく増加させる手段の1つに、学生実習に於ける既存のPCRプラーマーを用いた塩基配列の解読がある。そのため、形態によっても種の識別が比較的容易な直翅類をモデルケースとして、ミトコンドリアDNAの複数遺伝子の配列を解読し、種の識別に効果的な塩基配列の検索を行う。この情報を基に、種特異的配列を効率よく増加させるための汎用プライマーを開発する。

2)スケジュール
  • 2005年9月 共同研究の契約締結
  • 2005年9月−11月 バッタ類の採集、同定、保存(東邦大学)
  • 2005年12月−2006年3月 配列の決定と新規プライマーの提案(電力中央研究所)バッタ類DNAデータベースは共同で管理し,生態系研究および教育に活用する

塩基配列解読の対象分類群は今後自然史博物館と連携して順次拡大するが、共同研究の第一歩として直翅類から始める。対象分類群に関しては東邦大学の学生実習を活用し、学生による動物の採集、同定、生息場所の情報を可能な限りデータベース化した上で対象分類群の専門家を講師として招聘し、確実に種判別できる種のストックを蓄えていく。

  • 平成17年、18年の2年次野外生態学実習でクモ類を扱い、代表的なfamilyの種を標本化し、塩基配列を解読する。
  • さらに、正確に同定されてDNAを抽出した標本の保管に関するプロトコルを定める。
  • 全体をすりつぶす場合には、あらかじめ複数個体を用意し、その一部からDNAを抽出する。
  • 体の一部を利用する場合、後々の再同定に支障をきたさないような抽出部位を分類群ごとに定める。

以上の検討に基づき、データベースを利用した学生実習のプログラム草案を17年度中につくり、18年度の試行を経て19年度から実施する。

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