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東邦大学 薬学部薬物学教室  
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エホニジピン物語

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L型T型デュアルカルシウムチャネルブロッカーの発見と展開

難易度3

T型カルシウムチャネル阻害薬の構造的特徴

「ニフェジピンおよびエホニジピンの化学構造」 エホニジピンのジヒドロピリジン環の5位のホスホン酸構造は他のジヒドロピリジン系降圧薬には無い特徴的な構造です。カルシウム拮抗薬や中枢作用薬にT型カルシウムチャネル阻害作用を有するものがみられますが、他のイオンチャネルやトランスポーターに対する作用も併せ持っており、選択性の高い薬物はほとんど存在しません。L型T型カルシウムチャネルを遮断するエホニジピンはジヒドロピリジン環の5位にホスホン酸という独自の置換基を有していますが、類縁化合物の薬理作用を検討した結果、この5位のホスホン酸構造がエホニジピンの特徴的薬理作用、すなわちT型カルシウムチャネル遮断や洞房結節活動電位の緩徐脱分極相延長に重要であることが判明しました (22,23) 。このことから、"ジヒドロピリジン環の5位にホスホン酸あるいはそれに類似の嵩高い構造を有することが、T型カルシウムチャネル遮断作用発現に重要である"という仮説が導かれました。ただし、私たち自身で確認したなかでは、5位に通常のカルボキシメチルエステルを有するアラニジピンに関しても上記のエホニジピンと同様にT型カルシウムチャネル遮断作用が認められています (24) 。T型カルシウムチャネル遮断と分子構造との関係はそれほど単純に表現できるものでは無いかも知れません。

 ジヒドロピリジン環には不斉炭素があり、ジヒドロピリジン系薬剤は体と体の混ざったラセミ体として用いられています(ニフェジピンを除く)。エホニジピンの各光学活性体を検討した結果、T型カルシウムチャネル遮断に関しては体と体とで差が見られなかったのに対し、L型カルシウムチャネル遮断は体にのみ認められました (25) 。つまり、体はL型カルシウムチャネル遮断作用が無く、世界ではじめてのT型カルシウムチャネル選択的な遮断薬であることが判明しました。エホニジピン体を用いた検討で心拍数の制御におけるT型カルシウムチャネルの役割にはマウス>モルモット>ウサギの順であることがわかりましたが (26) 、これはT型カルシウムチャネルの役割は小さい動物ほど大きいという説 (27) を支持します。このことからエホニジピンの優れたプロフィールをL型T型両カルシウムチャネルを遮断することで説明できるのかどうか、新たな謎が生まれたとも言えます。病態時にT型カルシウムチャネルは正常時よりも多く発現していると考えられていますが、エホニジピンにこれまで明らかになっていない薬理作用があるという可能性も否定できません。今後エホニジピン体を用いてT型カルシウムチャネルの生理的・病態生理的役割が解明されるとともに、誘導体展開により新しい作用機序を持った治療薬が開発されることが期待されます。

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