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東邦大学 薬学部薬物学教室  
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エホニジピン物語

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L型T型デュアルカルシウムチャネルブロッカーの発見と展開

難易度3

心拍数とT型カルシウムチャネル

 L型T型両カルシウムチャネルを遮断するというエホニジピンの薬理作用の基本コンセプトが確立されるきっかけとなったのは心拍数に対する作用の特徴です。エホニジピンは他の新世代ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と同様に緩徐で持続的な作用を目指して開発された長時間作用型の薬剤です(6)。動物実験の結果、エホニジピンではジヒドロピリジン系薬剤の最大の副作用である血圧降下に伴う反射性頻脈が少ないことが観察されました(7)。これは当初エホニジピンの効き方が緩徐であることで説明されていました。ところが、私たちはエホニジピンが摘出心筋標本で右心房拍動数を低下させる作用が極めて強いことを見出し(8,9)、エホニジピンが洞房結節に対して特徴的な作用を有していると考えました。ウサギおよびモルモットの洞房結節標本にガラス微小電極法を適用して活動電位波形に対する各種カルシウム拮抗薬の作用を検討したところ、エホニジピンが他のカルシウム拮抗薬と異なり緩徐脱分極相後半を著明に延長させて拍動頻度を低下させることが判明しました(10,11)。エホニジピンによる波形変化はT型カルシウムチャネルを選択的に遮断するニッケルによるものと類似しており、さらに前述のミベフラジルによっても類似の波形変化が見られました (12) 。また、洞房結節細胞の膜電流成分に関する情報をもとにして活動電位波形を再構築し、T型カルシウム電流を遮断した時の変化をシミュレーションした結果もエホニジピンにより実際に得られた結果と類似していました(13)。単離心筋細胞を用いた膜電位固定法による検討の結果、エホニジピンがL型のみならずT型カルシウムチャネルにも確かに遮断作用を示すことが見いだされました (11)
 エホニジピンによるT型カルシウムチャネル遮断はウサギ洞房結節単離細胞 (14) やヒトT型カルシウムチャネルクローン発現細胞 (15) においても確認されています。これらの結果から、エホニジピンがL型T型両カルシウムチャネルを遮断して洞房結節の活動電位波形を変化させ、徐脈作用を発揮していることが明らかになりました。

 従来のジヒドロピリジン系降圧薬の最大の問題点として反射性頻脈による心筋酸素消費量の増大などによる心筋虚血の増悪が指摘されています。高血圧患者さんを対象とした大規模臨床試験の結果でも、心拍数と死亡率は相関しています(16)。すなわち、心拍数を高くする薬剤は患者さんの寿命を縮めているとも言えます。エホニジピンのようにT型カルシウムチャネル遮断による徐脈作用を併せ持つ薬剤は心拍数を低く保つことにより、心筋酸素消費量の増加を抑え、弛緩期の延長により虚血に陥りやすい心筋内膜側の冠血流量を十分確保できる点で優れており、心筋保護効果が期待できます (7) 。また、エホニジピンによるT型カルシウムチャネル遮断作用には頻度依存性があり、刺激頻度が高いほど遮断が強いことが明らかになっています (17) 。この性質から、エホニジピンによる徐脈作用は心拍数の高いときほど強くなることが予測されます。事実、エホニジピンは安静時の心拍数に影響することなく運動負荷時の心拍数の上昇を抑制し、また、高血圧症患者さんに投与した際には投与前の心拍数の高い患者さんほど顕著に心拍数を低下させるという臨床データも報告されています (18)

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