麦角アルカロイドの全合成
無保護アミノ酸の官能基選択性
アミノ酸のラセミ化
芳香族アミノ酸のブロム化
新赤堀反応
IDO阻害剤の開発
アミノ酸の化学−麦角アルカロイドの全合成
無保護アミノ酸を用いて反応を行ったおかげで、わずか3行程で、複雑な天然物の全合成に成功!
4-Bromoindole(1)とdl-Serine(2)を原料として(S)-4-Bromotryptophan(4)を経由し、わずか3行程で麦角アルカロイド,Clavicipitic
Acid(6)の全合成に成功した(右図)。
このルートは、無保護アミノ酸の反応を用いなければ実現できなかったものと考えられ、以下の特徴がある。
- 保護基を用いなかったために、わずか3行程で天然物の全合成に成功した
- 麦角アルカロイド類の共通中間体であるDMATと極めて類似した中間体(6)を経由した麦角アルカロイドの生合成ルートに極めて類似したルート
- 無保護アミノ酸である4-Bromotryptophan(S-4)のPd触媒による1,1-Deimthylalcohol(5)との反応において、無保護アミノ酸の水溶液中の反応でなければ、起こらないような官能基選択性が見られたこと
Three-Step Synthesis of Ergot Alkaloid
1と2を無水酢酸存在下、酢酸を溶媒として加熱するとN-アセチルトリプトファン(3)が得られる。3のアセチル基は、光学活性体を得るための良い足がかりであり、酵素(アシラーゼ)で加水分解するとほぼ完全に光学分割が可能であった。すなわち、たった2行程で、光学活性4-Bromotryptophan(S-4)を得たことになる。生合成では、酵素の働きでインドールとセリンから直接トリプトファンが生じるが、試験管内でこの反応が、実用的な収率で進行したのは、初めての例である。
この様にして得られた光学的に純粋な(S)-4-bromotryptophan [(S)-4]を1,1-dimethylalcohol
(5)と水を溶媒としたHeck反応をおこなうと、望む4-ビニル体(6)のみが生成する。しかし、これを取り出すことなく酢酸酸性にすると、アミノ基がSN2'型の反応をしてone-potでclavicipitic acid
(7)が得られた。
4から7に至るOne-Pot反応は、アミノ基が保護されておらず活性であったからこそ可能になった反応で、無保護アミノ酸の反応の大きな特徴であると考えている。また、活性なアミノ基には反応せず、ブロム基のついた炭素にビニル化が選択的に起こっていること(無保護アミノ酸の官能基選択性)、強い塩基性条件下でも全くラセミ化しなかったこと(アミノ酸のラセミ化)も注目に値する。
参考文献:a) Yokoyama Y, Hirakawa H, Mitsuhashi M, Uyama A, Murakami Y., Tetrahedron Lett., 40, 7803-7806,(1999). b) Yokoyama Y., Hirakawa H., Mitsuhashi M., Uyama A., Hiroki H., Murakami Y., Eur.j.Org.Chem., 2004, 1244-1253
黄色い風船の秘密
酸素は反応性が高く、化合物を変化させやすい。酸素よりも反応性が低く、重いアルゴンガスを風船に注入し、化合物の入ったフラスコの底をアルゴンガスで満たして実験を行うことによって、副反応を抑えます。