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バーチャルラボラトリ 有機化学は面白い−アミノ酸の化学−
東邦大学名誉教授
横山 祐作
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研究室紹介−薬品製造学教室

 私の所属している研究室は、薬学部の薬品製造学教室です。有機合成を基盤とした医薬品の新しい製造方法、生命現象の解明および医薬品開発を目的にしています。研究室のメンバーは、私と鈴木英治准教授氷川英正講師の3人で,毎日,学部生への講義、実習、そして卒論生、院生の指導に毎日励んでいます。
 それぞれが独立した研究テーマを持っていますが、共通のテーマでも研究を行っています。また、卒論生や院生の実験報告などは一緒に行っており、研究室として『薬の有機化学的な側面を総合的に研究する』という共通のテーマをもって運営されています。

 私のテーマのように純粋に有機化学(有機合成)の研究も行っていますが、より医薬品開発(創薬)を目指したものもあります。また、細胞や動物を用いた実験も行っており、生化学、薬物動態学に近いテーマもあり、幅広い分野をカバーしています。
 以下に一部を紹介します。

写真 鈴木英治(すずきひではる) 東邦大学薬学部准教授 鈴木英治(すずき ひではる) 東邦大学薬学部准教授

研究テーマおよびテーマの解説

1.アルツハイマー病治療薬を指向したアミロイドベータ凝集阻害剤の開発

 高齢化社会を迎え、認知症は深刻な問題です。その中でも患者数が最も多く、現在日本だけでも60万人が罹患しているアルツハイマー病は、脳内に40-42個のアミノ酸からなるアミロイドベータというタンパク質が凝集し、その凝集体の持つ毒性により脳細胞が破壊されていく疾患と考えられています。アルツハイマー病はいったん診断がつけば必ず進行性の経過をとり、年をとって忘れっぽくなるというのとは明らかに異なります。現在アルツハイマー病で使える薬は日本に1剤だけありますが、その効果は初期の症状をしばらく横ばい状態に保つことができるだけで、残念ながら進行を止める力はありません。
 私たちの研究室では、脳内のアミロイドベータの凝集を阻害できれば、アルツハイマー病の予防薬に、さらに脳内に蓄積したアミロイドベータの凝集体を溶解することが出来れば、アルツハイマー病の根本的な治療薬になると考え研究しています。アミロイドベータには脂溶性のアミノ酸が多く含まれ、特にこの中のKLVFFという5つのアミノ酸部分が中心となって凝集していくことが突き止められています。私たちのグループではこのKLVFFに水溶性のアミノ酸を結合したKLVFF(EEX)3はこのアミロイドベータの凝集を強く阻害し、さらに凝集体を溶解する性質を持つことを突き止めました。
 現在、この分子構造(アミロイドβの凝集認識部位+水溶性部分)のコンセプトを元に、次のステップとしてアミロイドベータ凝集阻害作用を持ちながら、血液?脳関門 (BBB) を通過でき、脳内に到達しうる安定な化合物を見いだすべく研究しております。実際にはアミロイドベータの凝集体(βシート構造)に結合することが知られているβシート構造の染色剤の誘導体をアミロイドβの凝集体(βシート構造)に結合する化合物ととらえ、これに水溶性部位を結合した化合物を設計しました。これらを実際に有機合成により作り出し、共同研究により活性評価を繰り返すというプロセスの中から本当に薬の候補品になるような物質を見いだしたいと考えております。

海草由来天然物をシードとした新規抗多剤耐性菌薬の開発

 近年、MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) を始め、従来の抗生物質が効かない耐性菌による感染症が問題となっています。特に高齢者、また免疫力が低下した重症患者に見いだされることが多く、治療法のない感染症として、非常に恐れられています。
 我々の共同研究者である佐賀大学・亀井准教授は日本近海の300種類以上の海草を採取し、その培養液のMRSAに対する抗菌活性を測定したところ、紅藻のなかで一番強い抗菌力を示した「ソゾノハナ」から4種類のブロモメチルチオインドール (MC 5-8) を見いだしました。これらの化合物は細胞毒性も比較的低く、実際にMRSA感染症マウスに投与してその有効性も確かめられています。しかし海藻からの分離はごく少量で、従って天然からの供給は不可能でありました。
 我々はこれらの化合物に注目し、インドール骨格に対する「硫黄化合物の悪臭を全く発生しない合成法」を新規に開発して天然物の初の全合成に成功しました。また合成した検体を用いてスクリーニングしたところ、MRSAに対し最後の切札として用いられているバンコマイシンに耐性を示すVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)に対しても強い抗菌力を持つことがわかりました。現在、次のステップとして有機合成により、水に対する溶解度の向上のため天然物の構造に水溶性の官能基を導入した誘導体の合成、さらに部分構造を変換し、より抗菌力の強い、細胞毒性の低い安全な誘導体を見いだすべく研究中です。

自己紹介

略歴

東邦大学薬学部、大学院修士課程を修了後、製薬メーカーの研究所に勤務後、母校の職員。

ひとこと

6年制薬学部からも創薬・有機化学分野で活躍する卒業生が多数出てほしい。

担当科目

有機構造解析学 生物有機化学 総合化学II

写真 氷川英正(ひかわひでまさ) 東邦大学薬学部講師 氷川英正(ひかわ ひでまさ) 東邦大学薬学部講師

研究テーマおよびテーマの解説

パラジウム触媒を用いた新しい反応の開発
 1.ハロピリジンへの位置選択的なクロスカップリング反応

 リード化合物の最適化研究において、構造活性相関を調べるために様々な置換基を導入した化合物が必要となります。特にピリジン環は薬理活性の向上、標的タンパクへの選択性や溶解性の改善が期待できることから、創薬において重要な構造の1つであります。しかし、複数個の置換基が置換したピリジン環をデザインしても合成が困難であるために、十分な調査ができないまま候補化合物を選択してしまいます。故に、合成困難な多置換ピリジンを有するビルディングブロックの供給方法の開発が新規な医薬品候補化合物を効率的に探索する上で必要となります。そこで、2つのハロゲンが置換したピリジン誘導体に対し、directing groupを用いた位置選択的なクロスカップリング反応を行うことで、異なる置換基を導入した3置換ピリジンを効率的に合成する方法を研究しています。

パラジウム触媒を用いた新しい反応の開発
 2.無保護アミノ酸へのN−アリル化反応

 麦角アルカロイドの全合成研究において、パラジウム触媒を用いたHeck反応を行う際に、無保護トリプトファンと1,1-ジメチルアリルアルコールから、副生成物としてアミノ酸のアミノ基と反応したN-アリル体が得られました。アミノ酸のN-アリル化の方法としては還元的アミノ化やアルキル化が知られていますが、本法はこれまでとは異なる新しい合成法です。N-アリルアミノ酸構造を有する天然物には生理活性があり、また、非天然型のアミノ酸への修飾方法としても応用できます。

自己紹介

ひとこと

製薬会社で得られた経験や知識を生かして、創薬に有用な新しい反応や方法論の開発を行っていきたいと思います。

担当科目

3年 構造活性相関

薬品製造学教室