細胞質内の直径1−2マイクロメートルの微小領域での非伝搬性のCa2+濃度上昇、すなわちカルシウムスパークは細胞質内全体の一見ランダムな地点で発生します(図7A,B)。カルシウムスパークの持続時間は30−40msecで、Ca2+濃度のピークまでの時間は約12msecと心室筋のカルシウムトランジェントのピークまでの時間に近いものでした。カルシウムスパークの発生は
ryanodine により抑制されましたが、 nicardipine や塩化カドミウム( CdCl2 )には影響されませんでした。これらの性質はカルシウムスパークが活動電位に依存しないRYRCからのCa2+の自発的放出であることを示しています。
カルシウムスパークとカルシウムトランジェントの関係を更に検討するために心室筋細胞のカルシウムトランジェント初期相のラインスキャン解析を行いました(図8)。カルシウムスパークを発生している心室筋細胞を電気刺激してカルシウムトランジェントを発生させ、x−t表示するとカルシウムスパークは流れ星のように捉えられ、これを1.8マイクロメートル間隔で同時に発生させるとカルシウムトランジェント初期相になるように見えました。一見ランダムに見えたカルシウムスパークの発生地点はカルシウムトランジェントでCa2+濃度上昇が早い地点、つまりT管のある地点と一致していました。さらに、カルシウムスパークが発生してから約30msec以内にカルシウムトランジェントを発生させた場合、その地点でのCa2+放出が欠落する現象が観察されました。
これらの結果はカルシウムスパークがSRからのCa2+放出の最小単位であり、心室筋ではカルシウムスパークが細胞質全体で同時に発生したものがカルシウムトランジェントであることを示唆しています。
ベータアドレナリン受容体刺激薬の isoproterenol によりカルシウムスパークの発生頻度、パターン、時間経過は影響されませんでしたが、発生時のピークCa2+濃度(振幅)が増大しました(図7C)。従来ベータアドレナリン受容体刺激による心筋の収縮力増大は細胞膜からのCa2+流入増大により説明されてきました。今回観察された
isoproterenol によるカルシウムスパークの振幅増大はベータアドレナリン受容体刺激時にRSからのCa2+放出の最小単位放出が修飾されること、つまりcAMP依存性のリン酸化等によりRYRCの機能が変化する可能性を示唆しています。現状での生きた細胞でRYRCの開口を直接観察する唯一の手段として、カルシウムスパークはCa2+放出の制御の研究や薬物の開発に応用可能です。
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