カルシウムトランジェントとは、活動電位によって惹起され全細胞質のCa2+濃度がほぼ同時に上昇する動きで(図1)、正常な心筋収縮に対応するものです。心室筋を電気刺激してカルシウムトランジェントを4msec毎に2次元画像化してみると、細胞の長軸方向に1.8マイクロメートル間隔でCa2+濃度上昇の早い部分が見られました(図2)。この間隔は、junctionalSRがT管と対峙して存在する間隔と同じです。さらに時間分解能の高いラインスキャン、すなわち単一走査線上の繰り返し走査を行い、その線上のCa2+濃度変化を時間に対して表示しました(x−t表示)。Ca2+濃度上昇の早い部分が1.8マイクロメートル間隔で存在し、濃度差は約4msの間持続することが明らかになりました(図3)。この細胞のT管も含めた細胞膜を
Di-2-ANEPEQ で染色したところ、Ca2+濃度上昇の早い部分がT管と一致していました。この結果は心筋収縮時にjunctionalSRからCa2+放出が起きることを初めて可視的に示したものです。
カルシウムトランジェント発生時の画像を見ると核のCa2+が細胞質に追随するように遅れて変化していることが分かります(図1)。ベータアドレナリン刺激(図1)、強心配糖体、低Na+、低酸素など、細胞質のCa2+濃度変化に影響する処置により核内のカルシウムの動きも変化しましたが、いずれの条件下でも核のCa2+が細胞質に追随するように遅れて変化していました。パッチ電極を介して膜電位固定を行い、細胞質のCa2+を人為的に変化させた場合や、次にご紹介する自然発生Ca2+ウェーブが生じた場合も同様でした(図4)。
最近免疫系の細胞などで核のカルシウムが独自に制御されているという説が提唱されていますが、心筋細胞の場合、核が拡散障壁として働いているものの、核内のCa2+は細胞質Ca2+の流入により受動的に変化していることが示されました。細胞質のCa2+動態が核内のCa2+に反映され、核内の出来事に影響しうることが示されたわけですが、心筋の電気活動パターンの変化がCa2+を介して遺伝子発現などに影響し、心臓のリモデリング等につながると考えると大変興味深いことです。
|