心筋の発達変化
難易度2
エネルギー確保の仕組み
心筋が収縮するためにはエネルギー源としてアデノシン3リン酸(ATP)が必要です。このATPを確保する仕組みも成体心筋と胎児心筋では異なっています。
【成体心筋】
成体心筋はミトコンドリアが発達しており、血中から取り込んだブドウ糖がここ、ミトコンドリアで最終的に酸素と反応して水と二酸化炭素に分解され、その際にATPが合成されます。このミトコンドリアによる効率的なATP産生を維持するには酸素が必要です。哺乳動物から心筋を取り出して栄養液中で収縮させ続けるには常に酸素を通気し続ける必要があります。この酸素の供給を遮断すると成体心筋では細胞内のATP量が著しく低下し、収縮力が消失してしまいます。
【胎児心筋】
これに対して胎児心筋は酸素の供給が低下しても、ATP量がある程度維持され、収縮が持続します。胎児期の心筋ではミトコンドリアは未発達ですが、その代わりにグリコーゲン顆粒が多く見られます。グリコーゲンから得られるブドウ糖を、酸素を使わずに分解する解糖系の働きによりATPを合成する仕組みが発達しています。胎児の血流中の酸素は胎盤を介して母体から供給されますが、成体に比べると酸素の含量がやや低めになっています。このような条件下でも酸素要求性の低い胎児心筋は収縮し続けることができます。
【出生後の心筋】
出生後の心筋は成長していく個体の要求に応じてより多くの血液を送り出すようになります。特に運動時には交感神経の活動が高まって心拍数も1回の収縮の強さも増大します。エネルギー供給の点でこれを支えるのがミトコンドリアによる酸素を使ったATP産生の仕組みであると言えます。
しかし、この見事な仕組みにも酸素が不足すると機能が破綻するという弱点があります。哺乳動物成体の心筋には冠状動脈が発達しており、心筋自身を灌流して酸素と栄養を供給しています。この冠状動脈の血流が血栓や動脈硬化などにより低下してしまうと心筋が一時的に収縮できなくなり、後に血流が回復しても機能障害が残ることが知られています。狭心症や心筋梗塞といった病気がこれに相当し、さまざまな治療法の開発研究が行われています。
ブドウ糖
グルコースともいう。多糖類。
細胞内では解糖系などによって分解され、生体エネルギーを産生する。
グリコーゲン
動物の体内にエネルギーを貯蔵する役目をもつ物質で、沢山のブドウ糖(グルコース)の結合でできている多糖類。
肝臓と筋肉に特に多く存在する。
肝臓のグリコーゲンは生体エネルギーの源となり、筋肉のグリコーゲンは筋収縮のエネルギーの源となる。
グリコーゲン顆粒
α、β、γの3種類がある。
α:βの集合体 ・ β:γの集合体 ・ γ:最も小さい顆粒
解糖系
ブドウ糖などの炭水化物(糖質)から、酸素を使用せずにATPを産生する仕組み。