キャンパスの植物たち

東邦大学名誉教授 吉崎 誠

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花壇の植物達

理学部II号館右側の花壇

 理学部I号館と、II号館の間の道の北側にはラン科のシランを植えてあります。マキ科のイヌマキの前の花壇には種子植物分類学実習で使う植物達を植えてあります。ナス科のジャガイモ(男爵)、ユリ科のカサブランカとトビシマカンゾウ、ナス科のムラサキジャガイモ、ユリ科のニッコウキスゲです。

ジャガイモ Solanum tuberosum L. ナス科

 そうです。じゃがいもです。コロッケ、肉ジャガ、ジャガイモサラダのあのジャガイモです。ここに植えてあるのはその中で最もポピュラーな男爵芋(Irish Cobbler)です。南アメリカ高地原産の多年草で、種子を蒔いて育てるよりも芋を切り割って灰をまぶして植え付ける無性生殖方法が一般的です。従って、同じ品種、同じ性質のものを大量に栽培できることになります。男爵芋の特徴は、見た目はごつごつした扁球形で、黄白色、肉質は白くゆでるとホコホコして味がよいことです。May Queenは長紡錘形で黄白色、身くずれしないことから料理用に用います。

ユリ カサブランカ(Lilium 'Casa Blanca') ユリ科

 わが国の山野に咲くヤマユリと栽培種の鹿の子百合とのハイブリッド百合の代表的な花がこのカサブランカです。草丈1mに達し、数個の花をつけます。大輪白花で強い芳香があり、雄蕊の濃い黄色い葯も見事です。少し下向きに咲くのが難であると言いますが、大形の美女で、百合の女王にふさわしい。花を咲いたままにしておくと、塊茎が分かれてしまうので、花は早々に切り花として楽しみます。

トビシマカンゾウ Hemerocallis middendorffii Irauv. et C. A. Mayer var. exaltata  ユリ科

 トビシマとは山形県の日本海に浮かぶ飛島のことです。カンゾウとは甘草と書き、若い芽をゆでて食べると甘いことからこの名がつきました。カンゾウの仲間はわが国にたくさん生育しています。このトビシマカンゾウは、かつて生物学科の主任をつとめた田崎忠良先生が山形県の飛島から採集してきたものをわけてもらったものです。飛島では葉の長さが1間といいますから1.8mにもなり、これを干して藁の代わりに用いたそうです。飛島はお米がとれませんから貴重な藁材であったわけです。6月、新潟県佐渡ヶ島の大野亀から二ツ亀にいたる草原はこのトビシマカンゾウの花で埋まります。是非、一生に一度は見て欲しい風景ですね。

ムラサキジャガイモ ナス科

 ジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の紫色の品種です。男爵に比べて茎は紫色を帯び、花も紫が強い。芋も紫色です。これをゆでて男爵で作ったジャガイモサラダに混ぜると、とても彩りが良く、煮くずれもしないでおいしい。しかし、紫色の芋のデンプンそのものは紫色ではありません。2002年、札幌で行われた日本生物教育学会の折に、たまたま通りがかった帯広高校の今井先生に1個の芋をもらい栽培し続けているものです。

ニッコウキスゲ Hemerocallis middendorffii Irauv. et C. A. Mayer var. esculenta (Koidz.) Ohwi) ユリ科

 初夏、尾瀬に行ってきた学生が、ニッコウキスゲの群落を見て感激して帰ってきます。花に見とれて、この花の蕾や花柄に無数にとりついていた真っ白なアブラムシは目に入らなかったにちがいありません。ニッコウキスゲはかつて日光戦場ヶ原の湿原いっぱいに咲いていたものでした。その蕾を摘んでバターで炒め、ちょっと塩をふって食べると甘くてとてもおいしいものでした。花も中国では金針菜とよんで、乾燥したものを水にもどして料理に用いています。ところが、戦場ヶ原は次第に乾燥化が進み、湿原は草原と化し、ズミやミズナラなどが進出してやがては森林となることでしょう。また、ニッコウキスゲは鹿の好物でもあることから自然では1本のニッコウキスゲも見ることができなくなってしまったのです。赤沼自然情報センターの一角にニッコウキスゲが植えられていて、初夏にはいっせいに橙色の花を咲かせています。戦場ヶ原でニッコウキスゲが見られるのはここだけとなってしまいました。

 花壇と花壇の間にはマメ科のイヌエンジュが植えてあります。ここにはかつてムラサキハシドイ、すなわちライラックが4月には紫色の花を咲かせていましたが、草刈りの時に刈られてしまい、今はありません。3回植えたのですが、3回ともに刈られてしまいました。イヌエンジュは高さ5mほどの低木ですが、2005年の秋になぜか上部の枝がすべて枯れてしまったのです。ここだけでなく、理学部T号館西側のイヌエンジュも、IV館裏のイヌエンジュもすべて上部の枝が枯れてしまったのです。どの木も下部の枝からは新しい葉枝が出ているのですが、全体的には元気のない姿になってしまいました。他の木も見てくださいね。ここのイヌエンジュにも、夏には必ずカナブンが集まってきて樹液を吸っています。

 ツバキ科のヤブツバキの前の花壇にはユリ科のニッコウキスゲ、ハマカンゾウ、ゴマノハグサ科のキンギョソウ、栽培種のキスゲ、そしてユリ科のハマオモトを植えてあります。

ニッコウキスゲ:隣の花壇に植えてあるものと同じものです。

ハマカンゾウ Hemerocallis fulva L. var. littorea (Makino) M. Hotta ユリ科

 海岸に生育するキスゲの仲間です。これは、静岡県下田市爪木崎の日本大学の臨海実験所の構内に生育していたものを分けてもらったものです。ハマカンゾウは冬でも葉が枯れることはありません。ここは海岸よりも好適な場所らしく、年々増え続け、毎年夏には赤みのあるオレンジ色の花を咲かせてくれます。1個、1個の花は、1日しか咲きません。翌日には枯れてしまいます。しかし、次々と新しい花が咲き続けるのでおよそ1ヶ月も咲いているのです。

栽培種デイリリー ユリ科

 Day lily(一日咲の百合):1個の花は一日しか咲かない、キスゲ・カンゾウの仲間をデイリリーといいます。世界中の温帯域に生育し、アメリカではいまだに大ブームが続いており、コレクターも多い。栽培種は、花が大きいし、色も鮮やかで、しかも、割に丈夫であることから広い庭に植えられています。濃い褐色がかった赤い大輪の花を見ると、これはわが家の庭に欲しいと思うにちがいありませんね。
ここには、ユウスゲも植えてありました。他のキスゲの仲間達は明るい日中に花を開くのに、ユウスゲは夕方から花を開きます。他の花に比べてレモン色で細く長い茎の上に清楚に咲く姿は凛として涼やかな花でした。
  キスゲの仲間達はそれぞれ良く似た花をつけています。しかし、それぞれ原産地では生育環境を異にし、また咲く時期を少しづつずらし、かつ咲く時間をずらしてお互いに交雑がおこらない工夫をしていることがわかります。

キンギョソウ Antirrhinum majus L. ゴマノハグサ科

 キンギョソウとは金魚が泳いでいる時の形に似ていることからこの名がつきました。ふつう5月によく咲くのですが、ここのキンギョソウは春にも秋にも咲くようです。今年は種子を結んだので、親株は枯れ、新しい芽が出てきて咲くにちがいありません。品種によって背の高いものから背の低いものまで、花色も赤、ピンク、黄色、白と多彩です。鉢花にも、切り花にももちいられています。咲いている花を1個取ってみてみましょう。花弁は1枚の筒状で、合弁花です。外側から見て、雄蕊も雌蘂も見えません。金魚の胴の部分を指先で軽くつまむと、キンギョソウの花がパクッと、口を開くのです。花の中に入った虫が、出口を求めて花の中でウロウロするに違いありません。英語でスナップドラゴンという意味がよくわかるだろう。

ハマオモト Crinum asiaticum Linne var. japonicum Saker ヒガンバナ科

 白い太い茎、緑色の1mをこえる大きな葉、茎は何枚も何枚もの古い葉が巻き重なって太くなったものです。夏にはこの間から高さ1mもの花柄をのばして頂きに白い大きなかれんな花を開きます。浜木綿ともいい、温かい地方の海岸に生育する多年草で、千葉県は自生の北限といわれています(ハマオモト線)。花が終わると、ポンポン玉のような形と大きさの種子がみのります。成熟した種子を机の上に置いておくとやがて緑色の芽を出してきます。植木鉢に植えるとそのまま育てることができます。種子は厚いコルク層におおわれて軽く、耐水性に富み水に浮きます。遠い南の国から黒潮に乗って千葉県に流れ着いたのかも知れません。霜にあたるととたんに枯れてしまいます。ここは上に木の枝がさしかけて霜から守ってくれるのでズウーッと長い間生き続けているのです。これらの株は20も年前に、四国は高知県の室戸岬で自生していたものの、種子を採って来て蒔いて育てたものです。何と長生きな植物でしょうか。

 理学部II号館左側の花壇は、目下調整中です。

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