キャンパスの植物たち

東邦大学名誉教授 吉崎 誠

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花壇の植物達

植えもしないのに・・・

植えもしないのにどこの花壇にも進出する植物達! ドクダミ・カタバミ・ハナニラ。

ドクダミ (Houttuynia cordata Thunberg) 5月6月の花 ドクダミ科

  5月中旬にはいると、あれほど咲き誇っていた春の花がいっせいに姿を消してしまいます。花壇や植え込みや林の縁などキャンパス内のあまり直射日光の当たらない陰湿なところに自生しています。すなわちどこにでも生育していると言ってよいのがドクダミです。いたるところに4弁の白い花を見かけます。ドクダミの花は1本の茎がまっすぐに30〜50cmにものび、紫紅がかったハート形の葉を互生してます。体全体に高級な香料の香りがします。日本人だとさわらなくても匂いを感じるのがドクダミです。この香りはMetyl nonil ketonです。

 ちょっと花をつまんで手にとって見てください。花は穂状(穂状花序)で、花軸にらせん状に小さな花が並んでついています。ピンセットで1個の花をつまんでみると、直径1ミリにも満たない小さな丸い子房があり、そのの尖端部の柱頭が3つに分かれています。子房のつけねから3本の雄蕊がのびています。葯は花糸の先端がふくらんだようについています(定着葯 basifixed anther)。1個の花の下部に白い糸のようなものがついています。よく見ると、1個の花に1個ずつついていることがわかりますね。これは苞です。ドクダミには花弁や萼のように花を保護する器官がないのです。このように、萼も花弁もない花を無花被花(achlamydeous flower)といいます。すなわち裸花(naked flower)です。さて、それではあの花弁のように見える白い部分は何だろう?らせん状にならんだ花の一番下に位置する4個の花の苞だけが発達してたものです。この苞は、花序全体を包んで成長し、やがて花が成熟するとこの苞を開いてあたかも4弁の花のように見せるのです。

 ドクダミの苞は、1個の花序にふつう4個しか発達しません。ところが、まれにたくさんの苞が発達して八重になることがあります。これを「ヤエノドクダミ」とよびます。葉に斑が入り、縁が赤や黄色にふちどられるものを「五色ドクダミ」とよんでいます。まれに、大久保商店街の路地で鑑賞用に栽培しているものを見かけることがあります。

 ドクダミはドクダミ科の1種です。ドクダミ科は4属4種の小さな科で、わが国にはドクダミ(Houttuynia cordata Thunberg)とハンゲショウ(Saururus chinensis Baill.)の2種が自生し、2種ともにキャンパスに生育しています。

 ハンゲショウは高さ50〜80cm、1本のすっくと立ち上がる茎にやはりハート形の葉を互生し、頂きに1〜3本の白い穂を生じます。夏至から数えて11日目の7月2日頃から5日間を半夏生と言います。このころに、ハンゲショウの上部の葉が白く化わります。この様子が半化粧ということからこの名がついたといわれています。隣の人の顔をまじまじと見ないでくださいね。

ドクダミはおいしい野菜

ドクダミは有毒植物と思ってはいないだろうか。ドクダミは十薬ともよばれて珍重されてきた薬草です。同時にわが国の古い時代には優良な野菜として食べられていました。若い芽を摘んで、おひたしにして食べていました。えっ〜!っていわないでください。1枚くらいの生の葉を食べても、決してお腹をこわすことはありません。ゆでたドクダミを切った包丁で、大根のかつらむきをしても、ドクダミの香りは決して大根に移りません。揮発性の高い香料としてドクダミの香水は最も高価な香水なのです。

カタバミ Oxalis corniculata L. カタバミ科

 ハートを2枚折りにしたような葉を3枚つけたカタバミの葉はクローバーに似ているという人もいます。しかし、クローバーのように丸い斑紋はありません。日中、よく陽が当たる所では、この葉は平らにひろがって太陽の光を受けています。陽がかげるとハートを2枚折にしてすこしつぼみ、さらに葉柄の苞に下がります。夜には2枚折になって全体が傘をすぼめたように折りたたまれてしまいます。雨の日も同様にすぼんでしまいます。葉の色は、やわらかな緑色から濃い紅褐色まで変化し、匍匐する茎も同じ色合いを示します。この葉をつまんで噛んでみると、酸っぱい!。カタバミ独特の酸っぱさがあります。茎は地面を這い、四方八方に拡がり、至る所に5弁の黄色い小さな可憐な花を付けます。花が終わると細長い槍を突き上げたような果実をつけ、うっかりさわるとパチッとはじけて種子を飛ばします。小さな球形の種子は飛び散ってしまうとどこに飛んだか探し出すことはできません。あたたかな所では、季節を問わずに芽生えてきます。根は細い糸状ですが、思いがけなく深いのです。抜いても抜いても気が付くと先日抜いたくらいに大きく育っています。たくましい生き物です。それだけに、花壇に入り込んだらもうなかなか退治できない困った草です。


 近年、カタバミに似て、葉がカタバミの3倍もあり、高さも10cmにも達し、1ヶ所から密集して葉を生じ、花も直径1をこすカタバミの仲間が花壇で見かけるようになりました。花が紫色で、花の直径が1.5cmほどになるムラサキカタバミ(Oxalis corymbosa DC.)
や、花の直径が3cmにもなるハナカタバミ(Oxalis bowieana Lodd. )、花の色は黄色で、直径1.5cmほどの花を開くキイロカタバミ(Oxalis pes-caprea L.)などを見かけるようになりました。花が美しい、可憐であると花壇に投げ入れられるものです。これらのカタバミの仲間達はカタバミと異なり花は数個散形花序につき、地下に鱗茎を形成します。1個芽生えると、たくさんの鱗茎を形成し、その鱗茎1個1個がたくましく芽生えて来て葉を開き、次々と鱗茎を増やします。これが畑に入り込むと、退治することは至難となります。誰が、持ち込んだものか、花壇に入り込んで一気に増えて始末の悪いものです。決して畑に植えたりしないでくださいね。

 カタバミはどこにでも見られる雑草です。しかし、戦国の武将達に、カタバミの葉を文様として紋所とした人達もいました。平家の紋所もこれだと言われています。

ハナニラ(Ipheion uniflorum (Lind.) Rafin.) ユリ科

 葉は同じユリ科のニラ(Allium tuberosum Rottl.)に似て扁平ですが、ニラのようにスッとまっすぐに長くもなりません。地面をはうようにのびます。葉をつまんで揉んでみると、強烈なニラ臭がします。ハナニラは、鱗茎で増える植物です。秋に昨年の球根から葉を芽生えさせて、冬の間中緑々していて、3月に一斉に高さ10〜15cmの花茎をのばして、頂きに直径1.5cmほどの純白の花を咲かせます。花は同花被花であたかも6弁の花のように見えます。また、少しほんの僅かに紫がかっていることが、さらに純白を引き立たせいてます。花を咲かさせた後、さかんに鱗茎を増やして葉は枯れます。4月には葉も枯れてどこにハナニラが咲いていたかもわかりません。そこで、まわりの土を耕すと、それらの鱗茎がバラバラになって土中にひろがります。やがて秋には一斉に葉をひろげて土の上を覆います。丁度緑のない季節ですから誰もが歓迎します。やがて一斉に花をつけて一面雪が降ったような純白の世界が拡がります。中央道路沿いの花壇とその周辺に多く、桜の花に先駆けて花を見せてくれます。


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