キャンパスの植物たち

東邦大学名誉教授 吉崎 誠

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花壇の植物達

理学部I号館左側の花壇 

コンニャク Amorphophalus konjac K . Koch サトイモ科

  ここの花壇は、春にはチュウリップが咲いています。チュウリップの花が咲き終わり、葉が枯れる6月に、ここには大きな1枚の葉を開くコンニャクが芽生えてきます。土からニョッキリと太い葉柄が立ち上がり、葉柄の頂は3支葉にわかれ、それぞれの支葉が奇妙な複葉を形成します。そうなんです、コンニャクはこの土から立ち上がった全体が1枚の葉なのです。地中には直径7〜10cmの球茎があります。球茎を掘り起してよく洗い、すり下ろして煮て、灰を加えると私達が食べるコンニャクができあがります。植え込んで、3年から5年で花が咲きます。花が咲くと葉は出てこず、球茎は枯れてしまいます。

日陰を好む草達 ヤブコウジ、マンリョウ、ナンテン、ヤブラン。

中央道路が造られて、その両脇にベニバナトチノキが植えられた頃、花壇には太陽の光がサンサンと降り注いでいました。しかし、木が大きく育って天空を覆うようになると花壇には太陽光が届かなくなってしまいました。すっかり日陰となってしまった花壇に植えられた植物達は一様に元気がありません。その中で、日陰でも元気なのがヤブコウジ科の植物達です。

ヤブコウジ Ardisia japonica (Thunberg) Blume ヤブコウジ科

  茎は地面からおよそ10cm高い所に葉を展らきます。よく見ると葉は茎に互生してついているのに、枝先に3〜5枚の葉を密集して輪生状についているように見えます。こんなに低い植物なのに常緑の木本植物です。茎をそうっと引っぱってみると、長い地下茎がズルズルと抜けてきます。昨年のびた部分に小さな花を数個つけます。春早くに葉にかくれて花を開きます。秋の終わりに直径5oほどの球形の果実をつけます。これが赤く熟します。1茎に多くても5個の果実しかみのりません。お正月飾りにするには、15〜25本の茎を集めて果実を外側に並ぶようにして縛ってあります。まん丸で、赤い真珠のような果実はおめでたいお正月の飾りになくてはならないものでした。果実は鳥に採られなければ春まで見られます。ヤブコウジは本来、林の下草のような低木です。暗いところを好む植物ですが、明るい所でもよく生育しますので、都会の花壇の縁取りや、グランドカバーとしても使われています。

ヤブラン Liriope platyphylla (Decne.) L. H. Bailey ユリ科

  葉は長さ30cmくらい、幅は1cmくらい、薄い剣状葉で先は丸くなっています。春に、基部から束になって伸長してきてやがてゆるやかにカーブを描きながら互いの葉が重なりあわないように拡がります。暗い林の中を好み、他の草のなかに埋もれるように生育している極めて目立たない植物です。8月頃、高さ30cmほどの紫色の花茎をのばしてこれも極めて小さく目立たない花を花茎の上半分にたくさんつけます(穂状花序)。ところが、この花が終わると、直径5oほどの球茎の果実を房なりにみのらせます。冬にはこの果実が黒紫色でツヤのあるものになり、すっくと立っているのです。株分けによっても増やしますが、林の中では鳥にこの種子を運んでもらうのですね。
  キャンパスのいたるところに生育していたものです。中でも、理学部X号館建築以前にはここに植えてあったシンジュの木の下によく生育していたものでした。

マンリョウ Ardisia crenata Sims ヤブコウジ科

  常緑樹の下に生育する草のような常緑性の低木です。ヤブコウジと一緒に生えていることも多く、高さ50〜100cm、古い葉を落としながら成長するので、葉は上の方にだけ生じるようになります。花は夏、昨年生じた短枝から散形に生じ、直径5〜7oほどの青い果実をたわわにつけます。晩秋に果実は赤く熟します。暗い場所でもよく育つことと、濃い緑の葉にまっ赤な果実をつけることからお正月の飾りにも用いられています。成長すると茎だけが伸びてしまうのでいかに切りつめるかがコツだそうです。
  年末には、お正月飾りとしてセンリョウ(千両)、マンリョウ(万両)、カラタチバナ(十両)、ヤブコウジ(一両)が縁起ものとして店頭にならびます。これらの中でセンリョウだけが、センリョウ科で、他はすべてヤブコウジ科の植物です。理学部I号館前の花壇には、センリョウ(千両)、マンリョウ(万両)、ヤブコウジ(一両)、それにナンテン(南天)を植えてあります。センリョウは盗まれて今はありません。ナンテンはメギ科の植物で、いずれも冬に赤い果実をつけます。これらの赤い果実を、冬に小鳥達はめざとく見つけて食べてしまいます。この花壇に芽生えたヌルデが大きく成長してこの花壇の上を覆っていました。この花壇の前にはベンチがあって、夏には日差しをよけて快適な場所でした。しかし、花壇の中に自然に生えたヌルデでしたが、あまりに成長が速く、花壇の中に広く根を張ってしまいました。2006年春に、このヌルデの木を伐採しました。驚いたのはこの花壇に生育していた日陰を好む植物達です。春の強い日差しを直接あびて葉焼けを起こしてしまいました。ヌルデの切り株は現在も花壇の中に残っています。たくさん落ちたヌルデの種子がこの花壇のまわりに芽生えいるのをみることができます。ヌルデは、理学部II号館の階段下にもあり、大きく成長して2階の手すりをこえてのびています。

ナンテン Nandina domestica Thunberg メギ科

 6円切手を知っていますか。そうです図柄はナンテンです。ナンテンの属名のNandinaはナンテンからとったもので、1属1種のみをふくみます。難転すなわち難を転ずるといわれる縁起のよい植物です。もともとは、林の中の草のような低木ですが、強い日差しにも強く、つやのある細かな葉をつける複葉が美しいこと、たくさんの真っ赤な果実をつけることから庭の一角に植えられます。茎はほとんど肥大しませんが、そんな草のようなたよりない茎のよく成長したものを探して茶室の床柱にしつらえた人もいました。京都金閣寺の夕佳亭(セッカテイ)は、茶道家の金森宗和が作った数奇屋造りの茶席で南天の床柱が有名です。金閣寺に行ったら是非見てきてください。6月に小さな白い花をたくさんつけた円錐状の花序をつけ、果実は赤く熟し、そのほとんどを鳥に食われてしまいます。葉は、数回奇数羽状複葉で、小葉片は小さいが、1枚の葉は大きい。葉を、お赤飯の上や、キントンにそえる。ただし、有毒植物なので葉はたべてはいけません。

マンリョウ、カラタチバナとナンテンは江戸時代に栽培好事家が葉の形や、色合い、果実の付け具合など多彩なものを作り出して高価で取引されたと言われています。そのほとんどが残っていないことはとても残念なことですね。

多様なバラ科の仲間達

  ここにはシャリンバイ、クサボケ、シモツケとモミジイチゴなどバラ科植物を植えてあります。

シャリンバイ Rhaphiolepis indica (L.) Lindl. et Ker var. umbellata (Thunberg ex Murray) H. Ohashi バラ科            

 海岸に生育する低木です。海岸は風が強く、紫外線が強く、乾燥し、土壌が少ない。そういうところに生育するシャリンバイは、背を低くて地面を這い、車輪のように葉を密生し、その葉を革質で厚くして蒸散をふせぎ、葉の表面をテカテカにして紫外線を反射し、岩の隙間のような所にも細い根を張ってしがみついて生育しています。春の連休の頃に白い梅のような花を小さな円錐状につけます。咲き始めは花の中央が黄色く、しだいに赤みをおびてきます。果実は直径8〜10oの球形で、黒に近い濃い紫色。
  銚子の犬吠埼では強い風を受けて高さ1mに満たない。そういう所から、船橋のような所に移植すると、たいがい背丈は高くなり、葉も大きくなることが多いのだが、シャリンバイは依然として銚子で生育していた時の様子を保っています。

クサボケ Chaenomeles japonica (Thunberg) Lindl. ex Spach バラ科

 わが国特産の低木です。薬学部も、理学部も習志野市泉町(現在の附属中高のある場所)の木造校舎で勉強していた時代、草ぼうぼうのグラウンドのあちらこちらに野生で生えていたものです。野球をしている間に草の中を走るときまってこのクサボケを踏んづけて痛い思いをしたものでした。どこにでも生育していた野草でした。草原や、明るい林の中に生育し、茎には匍匐、あるいは斜上して背丈50cmほどの雑草然とした低木です。4月に入ると茎の中部から下に朱色の花をたくさん咲かせます。離れて見ると、あたかも炎のように見えることから、自宅の庭には植えてはいけない木であるといいます。花は梅雨前まで絶え間なく咲きます。果実はゆがんだ球形で直径3〜5cm、時に思いがけなく大きな(直径7〜8cm)ものが茎に密着しています。夏の間は緑色であるが、秋に黄色く熟してとてもよい香りがします。果実酒にはとてもよいのだそうで、毎年のようにこの果実をねらいにくるオジサンもいる。キャンパスに、コンクリートの校舎が建つと、その周辺には決まって芝生が貼られます。そうすると、そこに生育していた植物達が根こそぎ消えてしまうのです。そういうことから、いち早く花壇に収容されたのがこのクサボケです。

シモツケ (Spiraea japonica Maxim.) バラ科

  これがバラ科植物かと思うほどに小さな桃紅色の花を枝先に密集(副散房花序という形態)します。高さ、50mほどにもなる落葉性の低木です。本州から南の山地で、岩場や、土の豊かでない所に生育します。可憐な花木で、花壇にも好んで植えられています。花の大きさと、密集状態からコデマリやユキヤナギの仲間ですね。

モミジイチゴ Rubus palmata Thunberg ex Murray バラ科

 わが国の山野にふつうに見られる野生キイチゴです。葉がモミジのように深い切れ込みをもって5裂片になりますが、1本の枝を見てもその切れ込み具合はさまざまです。色はやわらかい緑色である。春4月半ばに、葉の下に2〜3cmの長い花柄を垂らして白い花を開きます。可憐な花であるけれれども、うっかり手を出すとするどいトゲがあってふれるととても痛い。夏、キイチゴ特有の小核果が集まった集合果を下垂する。橙色のこの果実がまるでガラス細工で作ったように美しい。これを口に含むと瑞々しくておいしい。汁気が多く、子ども達の目にふれるとすぐに手が出て集めます。果実をつけた枝は翌年には枯れ、株の根元から新しい太い枝がのびてきます。果実をつけた枝が枯れるというのは草の性質であるといわれます。

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