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東邦大学名誉教授
小林 芳郎

基礎知識:体を維持するメカニズム

免疫とは何か

免疫の研究:ジェンナーとパスツール

 免疫というのは、疫病から免れるという意味で、「2度かかりなし」、つまり1度かかった病気には2度はかからないという経験を言い表したものである。 
 この現象は古くから知られていたが、その仕組みは近年になってようやくわかってきた。 
 よく知られているように、ジェンナーの種痘はこれを応用した有名な例である。
ジェンナーは乳搾りの女性は天然痘にかからないことが多いことに注目し、それは彼女たちが牛痘にかかっているためであろうと推測して、健康な人に人工的に牛痘を感染させてから天然痘に感染させ予防できることを示したのである。ただしこの発見は当時の医学界に受け入れられず、パスツールによって再発見されるまで100年を要した。
パスツールはニワトリコレラというニワトリの感染症が毒力の弱まったニワトリコレラ菌をあらかじめ接種することで予防できることを示し、ジェンナーにちなんでワクチン(vaccination)と呼んだ。牛を意味するバッカス(vaccus)にちなんで命名されたのであろう。

自然免疫・獲得免疫

*1:サイトカイン

インターロイキン(1〜30)、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子、ケモカインなど多様な仲間から構成され、多くが免疫調節作用をもつ。ホルモンと同様、微量で作用する。

 ニワトリコレラ菌がニワトリに感染すると、その場にいるマクロファージが貪食する。マクロファージはそれに伴ってサイトカイン(*1)とよばれるホルモンに似たタンパク質を多量に合成する。合成されたサイトカインやその他の物質の作用によって好中球が局所へと浸潤する。すると好中球は細菌を貪食、殺菌する。

 これらの応答は炎症応答の一部で、自然免疫ともいう。この応答に引き続きニワトリコレラ菌がつくりだす毒素に対して抗体がつくられるようになると、やがてニワトリのからだには免疫記憶が成立する。

 そのあと再び感染すると今度はずっとすばやく多量の抗体をつくるようになるので、「2度かかりなし」になるのである。このような応答は獲得免疫ともいう。

ニワトリコレラ菌の実験とワクチンの発見

細胞性免疫

 ニワトリコレラのように毒素をつくる細菌のほかに、結核菌のように毒素をつくらずに病気を起こす細菌もある。

 これらの菌はマクロファージなどの細胞の中でふえるという特徴があるため、抗体ができても無効である。細胞の中に抗体がはいることはできないからである。

 そのかわりこれらの菌には細胞性免疫が有効である。細胞性免疫が成立するとマクロファージが活性化されて細胞内の結核菌が死滅するからである。

 なおこのような免疫も獲得免疫という。ツベルクリン反応は私たちのからだに結核菌に対する細胞性免疫ができているかどうかを調べるための皮膚反応であり、よく知られているように、免疫が成立していると皮膚は1〜2日後に赤くはれる。