もう1つの例は胸腺である。胸腺では多数のT細胞が負の選択を受けてアポトーシスで死に、マクロファージによって貪食されている。左の写真は2004年私の研究室で卒業研究をしたAS(以後学生の氏名はすべてイニシャルで表記)が、正常マウス胸腺(上)、放射線全身照射(1 Gy)マウス胸腺(下)を、抗ss(single stranded:一本鎖)DNA抗体で染色したもので、茶色に見えるのがアポトーシス細胞である。
アポトーシスはこのように正常の個体でも起こっている。
では、死細胞を取り込んだときマクロファージはどのような応答をするのだろうか。
アポトーシス細胞の貪食除去は「静か」に進行し、ふつう炎症を伴わない。これに対しネクローシスは炎症を伴う。なぜならアポトーシスと異なり、ネクローシスは細胞質成分(タンパク質)の漏洩を伴うからである(たとえば、Science 267, 1445-1462, 1995)。現在では細胞質成分の中で、HMGB1 (High Mobility Group B1) タンパク質や尿酸などさまざまな物質が炎症を起こすと考えられており、DAMPs (Damage Associated Molecular Pattern Molecules)と総称されている。炎症とは、感染があったときなどに見られる反応で、白血球の浸潤、血管透過性の亢進、血管の拡張により発赤、発熱、疼痛、腫脹がおこるという特徴を有する。
免疫応答を開始させる重要な細胞、樹状細胞、は未熟状態にあるときにはマクロファージほどではないが死細胞を貪食することができる。
では死細胞を取り込んだとき未熟樹状細胞はどのような応答をするのだろうか。
未熟樹状細胞がアポトーシス細胞を貪食しても成熟しないのに対し、ネクローシス細胞を貪食すると成熟して、抗原提示をするようになる(Nature Medicine 5,1249-1255, 1999)。このようにして、からだの中に多数現れるアポトーシス細胞を未熟樹状細胞が貪食しても、自己応答性T細胞に抗原提示しないようにできているらしい。