ディジタル通信の速度限界 Maximum speed of digital transmission |
帯域幅とSNR(信号対雑音比)が与えられたとき、 注1: 周期定常の場合はこのページの議論は当てはまらない。具体例についてはロバスト伝送を参照。 伝送方式の優劣をいうとき、よく引き合いに出される尺度として通信路容量があります。 これはまた、情報通信の参考書でも、概念の理解のために中心的なものとして必ず登場します。 しかし、こういった教科書的な基本概念が、そのまま、新しい方式、CDMAやスペクトル拡散やUWB (Ultra Wide Band) などのプレゼンテーションなどで用いられ、報道機関は神のご宣託のように納得し、本当の意味が理解できないままWebニュースなどに流れてしまい、結果としていろんな神話を広げてしまいます。 頻繁に登場する図式として次の二つがあります。
まずは、これらの出所について見てみしましょう。 Fig.1 は(実)アナログ信号を対象にしています。 あくまでも、信号と信号の差を普通の電圧差(ユークリッド距離)で評価していることを念頭においてください。 Fig.1
の通信路容量は、送信信号が連続的な値をとり、これに雑音が加算された結果、受信者は送信値に関してどれだけの情報(ビット/秒)を得るかという尺度です。 それが帯域幅
によって評価できます(Fig.1)。 この場合、信号も雑音も連続的なガウス分布にしたがいます。 このアナログ通信路容量がディジタル通信路容量とどのように対応するかについてはなにも触れていません。 それは、次のようなポイントです。 上の公式の変数はSNRであり、シンボル伝送の通信路容量の計算(Fig.2)では変数は誤り率です。 信号をガウス分布とすれば、両者は一致しそうですが、でも完全に一致するかどうかは怪しいです。 以下に、量子化情報をディジタル通信(”0”と”1”の)する実際的なシステムの通信路容量を Fig.2 を使って計算しておきます。 Fig.2 は、2値データを送信したときの、通信路容量を与えるものです(通信路容量参照)。 ディジタル通信を高速化するファクターは二つです。 第一は、前述の標本化定理の限界速度でパルスを送ること。 第二は、パルスのレベル(振幅値)を多くして、一個のパルスに多くの情報を乗せることです。 このファクターがディジタル通信の速度限界を与える鍵になります。 次の前提を置きます。 (1) 多値パルス系列は独立 これらの前提の下では、以下の結果は、M元伝送(多重化する場合はCDMA)やODFMにそのまま当てはまります。 その理由については、最尤(ゆう)系列推定や最大事後確率推定を参照してください。 パルスのレベル数( この問題は、Fig.2 のモデルを多値伝送に拡張すれば計算できます。 といっても、見通しの良い理論は得られません。 問題を複雑にする点は、各レベルに符号を割り付けて、ハミング距離を評価しなければならないことにあります。 この割付いかんによって、誤りのハミング距離が違ってくるからです。 現実のモデムに含まれる伝送符号のブロック図を下に示します。 レベル判定の誤りは、グレー復号器でビット誤りに反映し、そのビット誤りは差動復号器で拡大され、デスクランブラーで更に拡大されます。 通常、誤り訂正の符号器は、scrambler と serial to parallel の間、復号器は parallel to serial と descrambler の間に挿入されます。 ここでは、グレー復号のみを考慮に入れて、誤りの平均ハミング距離を計算して通信路容量を求めてみます。 伝送符号の原理に関しては、差動・グレー符号を参照してください。 以下に数値計算の手順とその結果を示します。 Step1. SNR を与える。 Step2. 多値数 Step3. 各レベルにグレー符号を割り付け、レベル間のハミング距離行列を作っておく。
Step4. 雑音をガウス分布とし、その標準偏差を与えられたSNRから求める。 Step5. 各レベルが送信されたとして、誤りの平均ハミング距離を計算する。 最大レベルより大きい値は最大レベルに、最小レベルより小さい値は最小レベルに判定されることも考慮する。 Step6. 各レベルの発生を等確率とし、上で求めた平均ハミング距離を全体で平均する。 Step7. 各レベルの発生がパルスごとにランダムとすると、Step6
で求めた平均ハミング距離を
Step8. 図2の公式から通信路容量 以上の手順で求めた通信路容量 となります。 下に、
|