
イスミスズカケは千葉県いすみ市の一部にだけ生える蔓性の常緑多年草。2013年5月に新種として登録された新入りさんの植物だ。だが、正式に登録される前の2012年8月に絶滅危惧種としてレッドリストに載った。
私が初めてイスミスズカケに出会ったのは35年ほど前。T町で開催された植物交換会だった。その植物は競りに出されたものの参加者は全く関心を示さず、誰一人として手を挙げなかった。鉢にはただ“青い小さな花が咲く”とだけ説明書きがついていた。出品者の話によると「いすみの斜面に生えていた。蔓性で、そこにはかなりの数の株があった」という。そして「今まで見たことがないものだ。植物名がわからないからきっと珍しい植物だろう」とも言っていた。「スズカケソウだ!」植物の姿と出品者の話から私はそう思ったのだが、千葉県には分布していないはずだ。私はそれまでに得た知識からそう信じていた。結局、私が知らなかっただけで、この時に初めて千葉県にもスズカケソウの自生があることを知ったのだが…。
その植物の競りには誰も手を挙げなかったので、“スズカケソウのような植物”は私が初めて参加した植物交換会で初めて手に入れた植物になった。私は、とにかくこの植物をしっかり育ててみようと決めた。千葉県には分布していないはずのこんな貴重な植物は私にとってはお宝だ。もし私が手を挙げなかったら捨てられてしまっていた。価値観の違いとは恐ろしいものだと思った。
このスズカケソウのような植物を育ててみていくつか気づいたことがある。スズカケソウとの違いだ。全体的にはスズカケソウに似るが、スズカケソウの葉と茎にある毛がこの植物にでは成長するとほとんど見られなくなる。スズカケソウと違い葉の表面がつるつるしてくる。
また、私はこの植物の花を見るまでは中国原産のルリスズカケが何らかの理由でいすみ市の山に生えたのだろうと考えていた。実際はこれも思い込みだった。
ルリスズカケは草がとても繁る植物だ。花穂は長く花色は濃い赤紫色。それと比較すると草姿は少し似るが、咲いた花は毬状で花色は青紫色だった。
国内に自生する他のスズカケソウの仲間とも比べてみると違いはたくさん見られた。その時に「ひょっとしたらこれは新種かもしれない」と思ったが、私にはDNAを調べる術が無いので観察はそこまでとした。大切に育て続ける間に、こんどは知人から同じ“スズカケソウのような植物”を一株譲り受けた。2010年頃のことだ。その植物が2013年に新種として発表されたイスミスズカケだった。
2020年、イスミスズカケが特定第一種国内希少野生動植物種に指定され、採取や譲渡、売買が禁止の植物になったことを知った。
ところで、栽培に関してイスミスズカケはとても気難しいと感じた。挿し木で簡単に付くものの成長が遅く、開花までに数年がかかる。条件が良ければそれなりに育ち、咲いてくれることもあるが夏の暑さで急に枯れる。なので常に苗を作り保存する必要がある。絶え間なく手のかかる植物であった。そこで私は、どこかで自生するイスミスズカケに出会えないだろうかと考え、よく写真を撮りに行く房総半島の山を歩くときに気にして見るようにした。だが、かなり探したが全く会うことができなかった。35年前にその“スズカケソウのような植物”(イスミスズカケ)を持ってきてくれた人に聞いてみようと探してみたのだが、植物交換会で注目されていた植物ではなかったので、みな記憶に無く、誰だったのかわからなくなってしまった。情報は旧夷隅町(いすみまち)産ということだけである。
(イスミスズカケ/オオバコ科 2023年12月.記)