
朝、散歩をする利根川河川敷へ車で向かうのはまだ暗い時間帯でした。私の運転中にラッキーはいつも指定席の窓から夜明け前の景色を見ていました。暗がりでも、知っている人や犬を見つけると「あそこに居るよ!」とばかりに「フ~ンフ~ンフ~ン」と言って教えてくれるので私は「居たね~」と返事をします。すると「ウウウッ」と返してくれるのでした。見つけた人がラッキーの知り合いの場合にはテンションが上がり、窓から身を乗り出さんばかりに喜びました。車を停めると窓越しに挨拶をし、頭をなでてもらうと満足げに「ウウウ」と言いながら胸を張り、ドアに寄りかかるのでした。暗がりで誰かを見つけることができるのは土手の散歩でも同様でした。
また、ラッキーは2kmも先にいるワンちゃんを識別しているようでした。いつも行く土手には500メートルごとに標識があるので大体の距離がわかるのです。私の目ではかろうじて人と犬が居るのわかる程度でもラッキーには、それが相性の良い犬かそうでない犬かがはっきりとわかるようで、尻尾を振ったり背中の毛を逆立てたりしていました。私が「ラッキー、○○ちゃんだよ」と見間違えて言うと「ウウウウ(ちがうよ)」と反論されました。
ラッキーはとにかく目がとても良く、暗がりでも遠くが良く見えているように私は感じました。犬は近眼で遠目が効かないと聞いていましたが、ラッキーを見る限りそうではないように感じたものでした。この頃の私の視力は2.0でしたが、ラッキーの方が私よりもはるかに目が良いと感じることがたくさんありました。
家族で利根川の土手を散歩していた時のことです。ラッキーが嬉しそうに何かを咥えてきました。よく見るとネズミの、まだ毛も生えていない赤ちゃんでした。それを「どうぞ」とばかりにお袋に渡そうとしました。驚いたお袋が「ラッキーちゃん、いらないよ。」と言うとラッキーは少し残念そうにして自分でそのネズミを食べてしまいました。野良犬生活をしていた時にはご馳走だったのでしょう。おそらく「美味しいから食べて」と、お袋に持ってきてくれたのだと思います。ラッキーは他にも度々いろいろな獲物を捕えてきました。スズメ、ヤマバト、コジュケイ、コガモ、カルガモ、キジ、モグラ、ヒミズ、イタチ、ハクビシン…など、まるで猟犬のようでした。なかでもネズミ、モグラ、ヒミズは完全に“食料”として捕えていたように思います。生かして持ってくることは殆どありませんでした。おすそわけに貰っても食べられないので、獲物はいつの間にか黒飴と交換になりました。
黒飴は親父の大好物でした。いつも美味しそうに頬張るので気になったのか、ラッキーはその様子をじっと見ていました。ある時、親父からひと粒わけて貰って味を覚えてからはラッキーも黒飴が大好物になったのでした。散歩中に捕えた獲物をおすそわけしてくれようとするので、そんな時には食べられない代わりに黒飴と交換することにしました。なので、私はパジェロの中にいつも黒飴を用意していました。ラッキーは甘党だったように思います。
ラッキーは獲物によって“狩り”の仕方が違いました。特に印象に残っているのは車と並走するように土手を時速20キロくらいで走っていた時のことです。
ヤマバトを見つけたラッキーが、飛び立ったヤマバトを追いかけて走り出しました。直後に170cmほどの高さまでジャンプし、飛んでいるヤマバトを捕獲したのです。それはそれは見事な大ジャンプでした。まるで野生動物が鳥を捕まえるシーンのようで、とても驚きました。そのヤマバトは死んでしまったので、狩猟免許を持っていた親父がラッキーから貰って捌き、焼いたものはラッキーのごはんになりました。親父は70歳になったのを機に猟銃を手放し、以降は狩猟に行くことはありませんでした。
(つづく)