鉄と老化
おわりに
鉄はタンパク質以外にもDNAや脂質などの様々な細胞構成成分の酸化を加速することが知られています[図6]。 また、生体内への過剰の鉄蓄積は、ガンなどの病気のリスクを高めるとの報告があります。 加齢に伴う生体内への鉄蓄積は、動物の寿命に悪影響を与える一因となっていると思われますが、鉄と寿命についての最終的な結論に至るにはさらなる研究が必要です。
図6

現代社会では、栄養補助食品などの普及で鉄の過剰摂取も懸念されています。 しかし、一方では偏食やダイエットによる鉄摂取不足による貧血等の健康障害が心配されています。 鉄の一日所要量である10mg(成人男性)〜12mg(成人女性)(「第6次改定日本人の栄養所要量」に基づく)は、特に偏りの無い食事であれば問題なく摂取できる量です。 ところが、現実には20〜50歳未満のかなりの日本人、特に女性の約50%は鉄不足の状態(血清フェリチン濃度を指標とした貯蔵鉄不足)にあるといわれています。 鉄不足は、からだの発育発達や生理機能に障害を与える場合があり、「鉄不足」も老化に深く関与している可能性があります。 すなわち、日頃から適切な量の鉄を摂取し、体内の鉄をある一定レベルに維持することが、健康の維持、さらには抗老化につながるものと思われます。 なお、すでに貧血などで鉄不足が指摘されている方はかかりつけの医師の指示に従ってください。ご心配な方は最寄りの医師、薬剤師、栄養士などにご相談ください。
参考文献
- 主に鉄の生体内での作用と実験動物に関した総説
高橋良哉「微量元素と老化」Biomedical Research on Trace Elements 15 : 326-329, 2004. - 主にヒトに関した総説
横井克彦「鉄欠乏と老化の関連」Biomedical Research on Trace Elements 20 : 30-38, 2009.
(高橋良哉・福井<田中>ゆか)
- はじめに
- 加齢に伴う鉄蓄積
- カルボニル化タンパク質と鉄
- 寿命と鉄
- おわりに