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バーチャルラボラトリ 有機化学は面白い−アミノ酸の化学−
東邦大学名誉教授
横山 祐作
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アミノ酸の化学−新赤堀反応(無保護アミノ酸とアルデヒドの反応)

脱炭酸と同時のアルキル化

 アミノ酸は、生体内で脱炭酸と同時に多くの生体内物質に変換されている。この反応はピリドキサールを補酵素とする酵素(ビタミンB6)によって触媒される。反応機構は、シッフ塩基を形成した後、脱炭酸することが知られていて、今回の反応と類似の反応機構である。有機化学的にも、アミノ酸は、シッフ塩基を形成するか、あるいは窒素上にハロゲンが置換すると、容易に脱炭酸することが知られている。しかし、脱炭酸した後は、イミンを形成してアルデヒドになる反応が大部分で、今回の反応のように、“炭素−炭素結合”が生成する反応はほとんど知られていない。

立体選択的合成(ジアステレオ選択的合成と不斉合成)の開発

エナンチオマーとジアステレオマー

エナンチオマーとジアステレオマー

 不斉炭素を2つ以上有する化合物は、立体異性体としてエナンチオマーとジアステレオマーと呼ばれる関係が存在する。例えばエフェドリンの場合には、立体異性体は4つある(右図)。これら4種の異性体の内必要な化合物1種(この場合には1)だけを得ることを、立体特異的合成という。これらの異性体のうち、13あるいは24はジアステレオマーの関係である。通常ジアステレオマーは、スペクトル、融点、薄層クロマトグラフィー(TLC)の分離において区別できるため、別の化合物として検出できる。しかし、性質がよく似ているため、どちらか一方を多く合成することを、ジアステレオ選択的合成という。

 一方12あるいは34の関係は鏡像体(エナンチオマー)の関係と呼ばれる。また、エナンチオマーが1:1混合物をラセミ体という。鏡像体(エナンチオマー)同志あるいはラセミ体は、スペクトル、その他の物理化学的性質は全く同じで、旋光度のみが異なるため、化合物としての区別が困難である。従って、これらの化合物の普通の合成反応では、ラセミ体しか得られてこない。ラセミ体でなくどちらか一方の光学異性体を合成することを不斉合成という。

 生体内では、立体選択的反応がごく当たり前に進行している。
 例えば、エフェドリンは麻黄という植物から得られるが、図中4種の立体異性体のうちの1の構造であり、この一種しか生合成しない。また、自然界にあるアミノ酸、糖、核酸など生体成分も、すべての生物で同じ立体配置を有する鏡像体しか存在しない。従って、それらの成分から作られているタンパク質、DNA(遺伝子)なども、不斉の環境になっていて、医薬品は片方の鏡像体のみが有効である場合が多い。従って、立体選択的な反応(不斉合成)は、医薬品開発上では非常に重要なことである。