ヒルベルト変換 Hilbert transformation |
特定の周波数区間で、信号をそのまま通過させ、それ以外の区間ではカットするような帯域通過フィルターを合成する問題を考えます。 まず、下図のように、ゼロ周波数から上(正のすべての周波数成分)をそのまま通過させ、ゼロ周波数から下(負のすべての周波数成分)をカットするフィルターを考えます。すると、これだけを用いて、任意の帯域通過フィルターを合成することができます。下図のフィルターの周波数特性を
この 信号の複素共役は、周波数領域で言えば、 まず、 です。 実信号を対象にするならば、この複素共役を足して、 を作れば済みます。 次に、 です。 実信号を対象にするならば、この複素共役を足して、 を作ります。
実は、フィルター
ここで、 注1: ヒルベルト変換は 因果律と深い関係にあります。 微分や積分といった線形操作が因果的かどうかという問題は大変基本的なことなので、ディジタル微分器 を参照してください。 更に ARシステム、最小位相推移、 逆システム などが関連するページです。 上の式は、どの正周波数成分も90度位相を遅らせ、どの負周波数成分も90度位相を早めるという操作を意味しています。 ヒルベルト変換は線形変換ですから、時間領域表現はコンボリューションで表現できるはずであり、それは下のような形をしています。 ヒルベルト変換のインパルス応答は直角双曲線
右辺の第1項は、 ですが、 となります。 以上から、定数倍は本質的でないので無視すると、上で示したヒルベルト変換の周波数特性(超関数)、 が得られます。 フィルター
アナログ回路では90度位相差分波器で
この伝達関数から回路定数を決めてRLC回路を設計することができます。 上の伝達関数に微分の周波数特性
すると、 ですから、
上記二つの伝達関数もやはりオールパスですが、その位相特性が入力信号の周波数帯域で(たとえば、
70MHz から 100MHz までの範囲でなど)、できるだけ90度を保つように 二つの出力の間に90度位相差特性が実現されているので、それぞれを実部と虚部とみなした複素信号の周波数成分は正だけになります。 実際の90度位相差分波器では、位相差が相対的に90度になることに主眼を置いて設計されるため、信号全体がひずむことに留意していません。 すなわち、負周波数のカットを精度よく実現する反面、通過した正周波数成分の位相歪はほったらかしなので、注意を要します。 次に、ディジタルフィルターで実現する問題について考えてみます。 もちろん、上で求めたアナログ伝達関数に、たとえば、積分公式
を代入して
IIR (Infinite Impulse Response)
ディジタルフィルターを実現することもできます。 しかし、この場合はヒルベルト変換を直接的にFIR (Finite Impulse Response) フィルターで近似した方が見通しの良い設計ができ、信号歪のないフィルターを実現できます。 とりあえず、周波数区間
[ -W/2, W/2] Hz について、ヒルベルト変換の周波数特性と時間応答は下図のようになります。 黒い線は振幅、赤い線は位相特性を表しています。 時間応答は振動しながら
上の応答がなかなか減衰しない理由は、フィルターの帯域を W/2 Hz でいきなりカットしたからなので、今度は W/2 Hz から先でゆるやかに余弦ロールオフをかけてカットしてみます。 ただし、90度位相特性は厳密に保ったままとします。 すると、下図のように少し速く減衰する時間応答が得られます。 上の周波数特性はまだ周波数ゼロの点で位相の不連続な変化を含んでいます。 しかし、もし対象とする入力信号が直流近辺の成分をあまり含んでいなければ、直流近辺の位相の変化も滑らかにすることができます。 実は、直流成分を強く含んでいる場合でも、VSBAM変調などに適用する場合には矛盾なく目的を果たすことができます(振幅変調を参照)。 下図の例は、区間 [W/4, W/2] Hz の信号に対してヒルベルト変換をする例です。 これらのFIR
ヒルベルト変換を用いて
注2: 数学的には、ヒルベルト変換に定数
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