因果律    Law of causality

 FAXやTVなどを想定し、一本の走査線上の画像信号を とします。 この画像がボケるモデル

は、座標 を中心に、原画像が左()からも右()からも漏れてくる様子を表しており、自然に理解できます。 一方、通信や制御などで扱う信号は座標軸が時間なので、

のように書くと、未来の影響が現在に関わることになり、因果律に反することになります。 上の式は

のように書くべきです。 実際、下図のような制御ループを我々は理解することができません。

img1.gif

しかし、通信では(エコーキャンセラーなどの例外を除いて)、受信信号を送信側に帰還するような問題をあまり扱わないので、因果律を無視することが普通です。 実際、電話は数十ミリ秒、衛星は数百ミリ秒の遅れがありますが、我々はこの遅れをあまり意識しません。 むしろ、今受けた信号にもっとも多く含まれる情報に注目します。 その情報は、しばらく前に送信されたものですが、その時刻を受信者は現在とみなしてしまうわけです。 もう少し分かりやすい例でいえば、地震のゆれを感じたときには、実は体感できない前ぶれがあったはずです。 しかし、もっとも大きくゆれる時刻を地震が起きた時刻とみなそうということです。 このように考えて、式(2)または(2)’の表現を許そうということです。

では時間の原点(受信者の現在時刻)は厳密にどこでしょうか?

時間の原点を厳密に定義しないと、過去からの影響と未来からの影響を分離する意味がありませんし、漠然とした話で終わってしまいます。 予測や等化といった信号処理において、時間の原点は次のように定義され、重要な意味をもちます。 離散応答 をZ変換形式

で表したとき。

,     

のような分解が一意であることが時間の原点を決めます。 この分解によって線形システムの逆が定義されます。 詳しくは逆システムを参照してください。

因果的な応答 の周波数スペクトルには次のような関係があります。 周波数の片側成分(負周波数成分または正周波数成分)しかもたない応答の実部と虚部の間にはヒルベルト変換の関係がありました。

これを、時間域と周波数域を逆にしていえば、因果的応答のフーリエ変換の実部と虚部にはヒルベルト変換の関係があることになります。 すなわち、

が成り立っているはずです。

因果的応答の周波数スペクトルの虚部と実部の間には
ヒルベルト変換の関係がある。

 

注: 通信や画像処理のように因果律を無視できる場合は、微分や積分は非因果的ディジタルフィルターで設計する方が有利です