ロシア・極東プリモーリエ地区に点在する鉱泉を訪ねて

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図1 > 図2 > 図3 

二酸化炭素分圧が高い鉱泉水の化学成分について

 今回,プリモーリエ地区に点在する二酸化炭素分圧が高い鉱泉水(High pCO2 Water)の試料を採取しながら鉱泉の状況を観察してきましたが,ここでは各鉱泉の特徴ある化学成分について紹介します。この二酸化炭素分圧の高い鉱泉水は先に述べたようにプリモーリエ地区の西部から中央部にかけて広く分布しています。チュダエフ(Chudaev, O. V.) 氏によると,すべての鉱泉は泉温が 5.8〜 12.7 ℃の冷泉で,その泉温が示すとおり,この水は地表から1,000m以内の比較的浅い部分で循環している水でないかと考えられています(Chudaev et al., 2001)。

 またこれら鉱泉のほとんどが Ca -HCO3 型の水で,わずかながら Na - HCO3 型,または遊離炭酸を含んだ状態の鉱泉水が混在しています。鉱泉の分布については断層面に沿って存在しており,同位体の測定により鉱泉水に含まれるCO2 の C はマントル由来であることもわかりました。また,最大2.6 atm. という高濃度のpCO2 により,pH は4.07〜6.18と全体的に酸性に傾き,今回調査した鉱泉の pH はほとんどが 5〜6の範囲でした。

1999年のデータによるとルツキーの汲み上げ式井戸の泉温は 16.5℃ と他と比較して高い状態にあったが,他は 5.6〜 11.8℃であり,1994年のデータとの差はありませんでした。また,pHの値が4.42科〜6.77で,の濃度が全体的に高いのが特徴でした。DOは0〜1.4 mg/ Lと非常に低い値であり,ECは227〜2,400 μS/cm でした。また,プリモーリエ地区の二酸化炭素分圧が高い鉱泉水の溶存物質総量は23〜2,100 mg/ L と鉱泉によって大きな差が見られました。

ロシア極東のプリモーリエ地区の鉱泉の特徴をまとめてみると

 ロシア極東のプリモーリエ地区に点在する二酸化炭素分圧が高い鉱泉群中の代表的な鉱泉数ヶ所を実際に見て廻る機会を得,その状況や状態を知ることができ,また同時に水,沈殿物,ガス等の試料を採取し,これら試料について地球化学的・生物学的研究を行うことができました。これら鉱泉群の実体は先にも述べた様々な理由からあまり多く知られていないのが現実ですが,今回,このプリモーリエ地区に点在する二酸化炭素分圧が高い鉱泉を数ヶ所紹介するとともにこれら鉱泉水の特徴をお知らせする事が出来ました。特に,二酸化炭素分圧が高い鉱泉水中に含まれる多くの種類の微量金属元素の濃度は一般的に高い傾向を示しました。

 さらに個々の鉱泉水の成分に関してみますと,基本的には共通点が多く見られましたが,微量元素の濃度に関してはグループ間で,あるいは鉱泉間で差があることが示唆されました。この事は基本的には母岩の違いが原因として起こることがわかっていますが,鉱泉間で特定の微量元素の値を比較してみますと,鉱泉毎に量的な特徴があり,またある微量元素の量が飛び抜けて高い価を示すといった事実や,鉱泉毎に含まれる微量元素の傾向が異なるという事から,プリモーリエ地域の地下は様々な種類の岩石や鉱石によって構成されていることが推測されました。

 さらにこの地域には大規模な採掘が行われているダルニゴルスク (Dalnegorsk) 鉱山を筆頭とした微量金属元素を多く産出する鉱山がありますが,まだ未開発な鉱床・鉱脈が多く存在すると考えられます。つまり,鉱泉水の化学成分からある程度鉱床・鉱脈を構成している鉱石や岩石の種類の予想がつき,今後の利用が期待される地域であることは間違いない事実です。

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