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ヤーク40の機内 |
1999年夏,富山空港発ウラジヴォストク航空840便ウラジヴォストク行きはロシア製のヤーク40()という二十数人乗りの小型ジェットで,1番と2番の席が向かい合わせになっており,その間に大きめのテーブルが備え付けてある()ちょっと風変わりな飛行機です。きっとマニアにはたまらないだろうなぁ〜と思いながら小さいけどしっかりとした飛行で快適な2時間40分の空の旅を楽しみました。命の次に大切な高価な釣り道具をかかえながら入国審査と通関を通過した長男の庸介と一緒に降り立ったウラジヴォストック空港は国際線が新しいターミナルになったことと空港前のターミナルのところにホテルらしき建物が出来た以外は何も変わることが無く,ゆっくりと時間が流れている様子でした。
チュダエフ氏所有の通称クロコダイルと呼ばれているロシア軍払い下げのワゴン車()でお出迎えを受け,この後,約1週間にわたり様々な事件?が待ち受けている大自然の広大なタイガをめぐるフィールドワークがスタートしました。
富山空港の飛行機 |
クロコダイル |
図1 プリモーリエ地区と鉱泉分布 (クリックで拡大) |
図2 プリモーリエ地区の地質構成 (クリックで拡大) |
広大な国土を有するロシア連邦の東部は中国や朝鮮半島と接しており,また我が国からも非常に近い距離に位置しています。この地域を総称してロシア極東とよび,その中心となる大都市は海に面したウラジヴォストク(Vladivostok)市と内陸のハバロフスク(Khabarovsk) 市です。ウラジヴォストク市は新潟から約 950 km の対岸に位置する港湾都市で,かつてはロシア太平洋艦隊の拠点でした。このような理由から,ソビエト時代は軍事上の機密都市で外国人の立ち入りが許可されていなかったという歴史があります。
プリモーリエの森 |
このウラジヴォストク市からほぼ北へ 600 km 離れた場所に,アムール川 (Amur) の交易で栄えたハバロフスク市があります。ウラジヴォストク市からこのハバロフスク市の南側に至る広大なタイガはプリモーリエ (Primorye) 地区と呼ばれ,約25万の広さの手つかずの森林です()。このプリモーリエ地区には100以上の温鉱泉や淡水冷鉱泉が湧出しています(図1参照)。
これら温鉱泉の分布を詳細に見ますと,ウラジヴォストク市の北部には淡水冷鉱泉の湧水群が広がり,その湧水群の一地区には食塩泉の存在が認められます。さらにこの地区には温度が高い“狭義の温泉”はほとんど存在せず,“狭義の温泉”は日本海側に面した2地域に見られるだけです。日本の温泉基準から言うとプリモーリエ地区のほとんどが冷鉱泉水に属します。さらに同地区の鉱泉はそのほとんどが多量の二酸化炭素を含んでおり,鉱泉毎に様々な種類の微量元素が大量に含まれていることにも特徴があります。
日本国内ではロシア極東の温泉・鉱泉についてほとんど紹介されていないのが現状です。このプリモーリエ地区はかつて日本列島と非常に近接な位置関係にあった事からも,この地区に存在する鉱泉の状況を知ることは地質学・陸水学上重要であると考えられます。今回,ウラジヴォストク北部に広がる広大なタイガ,プリモーリエ地区に点在する二酸化炭素分圧の高い鉱泉水に関するロシア科学アカデミー極東地質学研究所との共同研究により,1999年8月にサンプリングを行いながらそれら鉱泉の状況を見てまわる機会を得ましたので、ここではこれらの鉱泉を皆様に紹介するとともに,それらの特徴についても解説いたします。