掲載:2012年6月4日
2012年4月5日から5月5日に、第108回鳥島オキノタユウ(アホウドリ)調査を行ないました。その調査結果の概要を報告します。
2011年11月下旬から12月初旬に産卵数を調査し、今回、すべてのひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました。
下表にその結果を区域ごとにまとめました。
区域 | 産卵数 | 巣立ちひな数 | 繁殖成功率(%) | |
---|---|---|---|---|
従来コロニー | 西地区 |
306 |
204 |
66.7% |
東地区 |
97 |
71 |
73.2% |
|
小計 |
403 |
275 |
68.2% |
|
新コロニー | 燕崎崖上 |
7 |
6 |
85.7% |
北西斜面 |
102 |
72 |
70.6% |
|
鳥島全体 |
512 |
353 |
68.9% |
昨シーズンと比較して(第106回調査報告を参照)、繁殖成功率は鳥島全体で4.5%上がって68.9%でした。とくに、従来コロニーの西地区で+6%上がり、燕崎崖上の新コロニーでは+69%と、大幅に改善しました。従来コロニーの東地区と北西斜面の新コロニーでは、昨シーズンとほぼ同率(70%台)に維持されました。
特筆すべきは、北西斜面の新コロニーから72羽のものひなが巣立ったことです。このコロニーが2004-05年期に確立してから、まだ7年しか経っていません。「デコイ作戦」に着手した当初(20年前の1992年)、これほどの急成長をだれが予想できたでしょう。新コロニーからの巣立ちひな数は、これまで、前シーズンの繁殖つがい数とほぼ同じかやや少ない数でした。したがって、来シーズン、ここから90-100羽のひなが巣立つと期待されます。
今シーズン、鳥島から巣立ったひなの数は353羽でした(昨年比+43羽)。もちろん、これは近年最高です。これら以外に15羽のひなが鳥島から小笠原諸島聟島に運ばれて野外で飼育され、14羽が巣立ちました。したがって、今シーズンの鳥島生まれの幼鳥数は合計367羽となります。
今繁殖期直後の鳥島集団の推定個体数は、7歳以上の成鳥が1,254羽、1歳から6歳までの若齢個体が推定1,394羽、今シーズンに巣立った幼鳥は353羽で、合計約3,000羽となりました。3000羽には到達できないという昨年の"悲観的"予測(第106、107回調査報告)ではなく、それ以前の予想(第105回調査報告)が的中したといえます。
アホウドリ集団の死亡率は平均して年率4.5%と見積もられ、来年の同時期までの1年間に3,000羽のうち約135羽が死亡し、2,865羽が生き残るでしょう。来シーズン(2012-13年期)の繁殖つがい数は約550組(従来コロニー西地区310組、同・東地区102組、燕崎崖上8組、北西斜面130組)と予測され、繁殖成功率がこれまでと大きく変わらなければ(最近5年間の平均は70.1%)、巣立ちひな数は380-385羽となるのですが、来シーズンからは小笠原諸島聟島にひな(15羽)が運ばれないので、その分(繁殖成功率にして約3%)が上積みされて、390-400羽のひなが巣立つと期待されます。したがって、来シーズンの繁殖後の総個体数はおよそ3260羽となるはずです。
つぎの2013-14年期には、約590組のつがいが約420羽のひなを育て、さらに2014-15年期には640組が450羽、2015-16年期には700組が500羽弱のひなを育てると予想されます。その後の繁殖つがい数と巣立ちひな数、総個体数の予測を表2にまとめました(第100回調査報告をも参照)。もし、現在の環境が変わらなければ、少なくともこれから約10年間は、ほぼこの数字に沿って鳥島集団は成長・回復してゆくはずです。
産卵年 | 繁殖つがい数 | 巣立ちひな数 | 総固体数 |
---|---|---|---|
2012 |
550 |
390 |
|
2013 |
590 |
420 |
|
2014 |
640 |
450 |
|
2015 |
700 |
490 |
約4000羽 |
2016 |
760 |
540 |
|
2017 |
820 |
580 |
|
2018 |
890 |
630 |
約5000羽 |
2019 |
960 |
680 |
|
2020 |
1040 |
730 |
約6000羽 |
今シーズン、燕崎斜面でかなり大規模な泥流が発生し、中央排水路に沿って流れ下り、海岸まで達しました。これほどの泥流が起こったのは、1987-88年年以来、24-25年ぶりです。
今年の1月19-23日、2月22日から3月3日、3月6-10日の間、鳥島から小笠原諸島にかけての一帯は低圧部となり、前線が停滞して、低気圧がつぎつぎに通過しました(気象庁|日々の天気図、を参照)。おそらく、前線による長雨で水を大量に含んだ地面に、低気圧の通過によって強い雨が降り、泥流が引き起こされたと推測されます。
このように大規模な泥流が発生したにもかかわらず、泥流はオキノタユウのコロニーには流れ込みませんでした。それは、2010年5、6月に環境省と山階鳥類研究所によって中央排水路が掘削・整備され、その排水路が「導水溝」として機能したためです。その結果、従来コロニーでの繁殖成功率が低下することなく、数多くのひなが巣立ちました。
今回の滞在中、ぼくは水流による燕崎への土砂の流下を防止するために、鳥島の頂上部でいくつかの土留め堰堤を補修しました(第102回調査報告参照)。しかし、これだけでは不十分で、さらに根本的な砂防工事が求められます。この工事は、今後数年間をかけて、環境省予算(国設鳥獣保護区の管理維持)によって実施される予定です。