掲載:2011年6月20日
2011年4月5日から5月4日に、第106回鳥島アホウドリ(オキノタユウ)調査を行ないました。その調査結果の概要を報告します。
昨年11月下旬から12月初旬に産卵数を調査し、今回、すべてのひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました。下表にその結果を区域ごとにまとめました。
区域 | 産卵数 | 巣立ちひな数 | 繁殖成功率(%) | |
---|---|---|---|---|
従来コロニー | 西地区 |
303 |
184 |
60.7% |
東地区 |
93 |
69 |
74.2% |
|
小計 |
396 |
253 |
63.9% |
|
新コロニー | 燕崎崖上 |
6 |
1 |
16.7% |
北西斜面 |
79 |
56 |
70.9% |
|
鳥島全体 |
481 |
310 |
64.4% |
昨シーズンと比較して(第104回調査報告を参照)、繁殖成功率は鳥島全体で8.9%低下して64.4%でした。とくに従来コロニー西地区で10.1%、燕崎崖上の新コロニーでは54.7%も下がりました。その結果、巣立ったひなの数は、前年より17羽減少して、合計310羽でした(この他に15羽のひなが鳥島から小笠原諸島聟島に運ばれ、野外飼育され、すべて巣立ちました。したがって、鳥島産のひなは合計325羽となります)。
従来コロニー西地区で繁殖成功率が低下した原因は、2010年2月に発生し、西地区東側の下部に流れ込んだ泥流だと考えられます。2010年5-6月に環境省・山階鳥類研究所によって、中央排水路を掘削し、その排水機能を回復し、 従来コロニーへの泥流の流入を防止する工事が行なわれました。しかし、その時、泥流が流れた区域にチガヤやシバを植えて、地面を安定にする工事までは行なわれませんでした。そのため、その区域は火山砂によって覆われ(写真1、第104回調査報告・写真4/第105回報告・写真1をも参照)、急傾斜になっている地面は非常に不安定で、砂の移動が激しく、卵や孵化直後の小さいひなの死亡事故が増加したと推測されます。
また、燕崎崖上は平坦ではあるものの、そこにはハチジョウススキやラセイタソウ、イソギクなどの植物がまばらに生えているだけです(第101回報告・5番目の写真を参照)。そのために、そこで営巣するつがいは強風や突風の影響を受けやすく、過去にここでの繁殖成功率は大きく変動しました(2004-09年、0-100%)。今シーズンは、おそらく南西からの強風が吹き込み、砂混じりの突風が発生して、営巣つがいが影響を受け、繁殖に失敗したのだろうと推測されます。
北西斜面の新コロニーでも、繁殖成功率が8%低下しました。それでも、まだ70%台を維持しているので、とくに問題はないでしょう(写真2、3)。
このように、昨シーズンと比較して、今シーズンは繁殖成功率が約9%低下しましたが、この3年間つづけて300羽以上のひなが巣立ち、その合計は943羽で(小笠原諸島聟島に運ばれて、そこから巣立ったひなを含めると、鳥島生まれのひなは988羽)、この数字は鳥島集団の順調な繁殖を物語っています。
2010-11年繁殖期直後の鳥島集団は、7歳以上の成鳥が推定で1,178羽、1歳から6歳までの若齢個体が推定1,268羽、今シーズンに巣立った幼鳥は310羽で、合計約2,755羽となりました。昨年の同時期より185羽の増加です。
アホウドリ集団の死亡率は平均して年率4.5%と見積もられました。そうすると、来年同時期までの1年間に2,755羽のうち、約125羽が死亡し、2,630羽が生き残ります。したがって、来シーズン(2011-12年期)に370羽のひなが巣立つならば、鳥島集団は3,000羽に到達します。来シーズンの繁殖つがい数は505-510組と推定されるので、繁殖成功率は、近年最高を記録した2008-09年期と2009-10年期と同程度の約73%となる必要があります。今シーズンの後に、従来コロニー西地区の泥流流入区域で植栽工事が実施されなかったので、「3000羽到達」は実質的に達成困難となりました。
ただ、そのつぎの2012-13年期からは、小笠原諸島聟島にひなが運ばれなくなるので、鳥島から巣立つひなの数は急に増えて400羽に近づき、総個体数は3000羽を超え、2015-16年期には4000羽に、さらに、2017-18年期には約5000羽になるにちがいありません。