掲載:2012年1月26日

第107回鳥島オキノタユウ調査報告

鳥島集団はきわめて順調に増加、全体で512組のつがいが産卵、北西斜面の新コロニーでは102組に

 2011年11月27日から12月15日に、第107回鳥島オキノタユウ調査を行ないました。この時期、鳥島の北西斜面で、中腹以上にはイソギクが満開となり、黄色の絨毯を敷いたようなお花畑が現れます(写真1)。鳥たちの産卵を祝福するような光景です。

 下表に、調査結果の概要をまとめました。

 表1.鳥島におけるオキノタユウ集団の2011年12月期センサス結果
つがい数、カウント数(平均と最大)と若齢個体の割合、最近7年間の繁殖成功率の平均値を示す。
  従来コロニー 新コロニー 鳥島全体
燕崎斜面 燕崎崖上 北西斜面
繁殖つがい数(組)
403
7
102
512
昨年比
+7
+1
+23
+31
増減率
+1.8%
+16.7%
+29.1%
+6.4%
カウント数
(羽)
平均
601.6
10.2
193.3
818.4
昨年比
+23.9
-3.1
+29.7
+47.5
増減率
+4.1%
-23.3%
+18.2%
+6.2%
最大
643
15
206
882
昨年比
+43
-1
+34
+89
増減率
+7.2%
-6.3%
+19.8%
+11.2%
若齢個体割合(%)
昨年比
50.2%
65.1%
86.4%
58.2%
+3.1
-19.7
-0.4
-2.0
繁殖成功率
2004-2010年の平均
65.2%
51.9%
78.4%
65.6%

▼写真1 鳥島の中腹以上で満開となったイソギクのお花畑

鳥島の中腹以上で満開となったイソギクのお花畑

 

繁殖つがい数とカウント数

 鳥島全体で、繁殖つがい数は少なくとも512組で、昨シーズンから31組、6.4%の増加でした。とくに、デコイと音声装置を利用(デコイ作戦)して形成した北西斜面の新コロニーでは102組が産卵し、昨年より23組、29%、と急増しました(写真2)。それに比べて、燕崎斜面の従来コロニーでは、つがい数は403組でしたが、昨年からわずか7組、1.8%の増加にとどまりました。燕崎崖上の新コロニーでは、2008年以降、6、7、6、7組とただ1組の増減がみられただけです。

 鳥島全体で繁殖つがい数は、ついに500組を超えました。1979年11月にちょうど50組だったので、10倍になるのに32年間を要したことになります。

 北西斜面では、1992-93年繁殖期に「デコイ作戦」が開始され、若い個体が誘引されて、初めて着陸しました。それから19年で100組を超えたのです。従来コロニーのつがい数が100組を超えたのは1990年で、再発見から40年後でした。それと比較すると、新コロニーがいかに急成長したか、わかるでしょう。

 それぞれの区域で計数することができた平均の個体数は、従来コロニーでは601.6羽で、昨年比23.9羽、4.1%の増加でした。北西斜面では193.3羽、昨年比29.7羽、18.2%も増加しました。カウント数の最大値をみても、北西斜面の新コロニーでの増加が目立ちます。カウントした個体のうち約10歳未満の若齢個体が占める割合は、従来コロニーで52.0%、北西斜面の新コロニーでは86.4%でした。

▼写真2 北西斜面の新コロニー(2011年11月)

北西斜面の新コロニー(2011年11月)

これらの数字から、各コロニーの動向を予測すると

1)広大な北西斜面にある新コロニーでは、若齢個体の割合が高いので、今後、それらがつぎつぎに繁殖に加入し、つがい数は急速に増加する。

2)燕崎崖上の平坦な場所は、植生が乏しく(写真3)、営巣適地が少ないため、ここで営巣するつがいの数は、今後も10組以下にとどまる。

3)燕崎斜面の従来コロニーでは、若齢個体の割合が低く、今後、つがい数の増加率は低下する。このコロニーは飽和状態に近づいていると考えられ(写真45)、繁殖できるつがい数の上限はおよそ500組と推測される。

4)燕崎斜面の従来コロニーで生まれた個体は、混雑した従来コロニーを避けて、どんどん新コロニーに移入し、つがいを形成して繁殖活動を開始する。

▼写真3 燕崎崖上の新コロニー(2011年11月)

燕崎崖上の新コロニー(2011年11月)

▼写真4 燕崎斜面の従来コロニー(2011年11月)

燕崎斜面の従来コロニー(2011年11月)

▼写真5 従来コロニー西地区(2011年12月)

従来コロニー西地区(2011年12月)

巣立ちひな数と総個体数、今後の成長の予想

 北西斜面の新コロニーが確立した2004年から2010年までの最近7年間の繁殖成功率を各区域で比較すると、燕崎斜面の従来コロニーで平均65.2%、燕崎崖上の新コロニーで51.9%、北西斜面の新コロニーで78.4%、全体では65.6%でした。

 急傾斜地にある従来コロニーでは、これまで砂防工事や植栽工事を継続して、営巣環境を改善してきました。しかし、低気圧にともなう大雨で泥流が発生してコロニーの一部区域に流入したり(2010年2月)、強風や突風によって斜面に堆積していた火山砂が吹き飛ばされて砂嵐が発生したりして(2005年春と2011年春)、卵や幼いひなが犠牲になり、繁殖成功率は約66%程度にとどまっています。

 一方、適度の量の植生が存在し、平坦な場所にある北西斜面の新コロニーでは、泥流や強風の影響はなく、毎年、若いつがいが数多く初めて産卵するにもかかわらず、繁殖成功率はかなり高く、平均78%に維持されています。

 平均繁殖成功率にもとづいて2012年5月の巣立ちひな数を予想すると、燕崎斜面から263羽、北西斜面から80羽、燕崎崖上から3-4羽で、合計340-350羽となり、繁殖期後の総個体数は、2,990-3,000羽となるでしょう。

 来たる2012-13年期には、鳥島全体で550-560組、つぎの2013-14年期には約600組、2014-15年期には約650組、さらに2015-16年期には約700組が産卵すると予想されます。今後、北西斜面で営巣するつがいの数が増すにつれて、鳥島全体としての繁殖成功率は、これまでの約66%からだんだんと改善されて70%に近づくでしょう。それにともなって巣立ちひな数も増加し、2015-16年期には約500羽となると予想されます。そのころの鳥島集団の総個体数はおよそ4,000羽になります。そして、それから3年後の2018-19年期には、まちがいなく5,000羽に到達します!

 

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