掲載:2009年2月23日

第100回鳥島アホウドリ調査報告

従来コロニーで362組、燕崎崖上で6組、北西斜面の新コロニーで50組、
鳥島全体で418組が産卵

2008年11月23日から12月10日に、第100回鳥島オキノタユウ調査を行ないました。その結果を報告します。

1. 繁殖つがい数

表1に、近年の産卵状況とあわせて、区域別の繁殖つがい数をまとめました。

表1 鳥島におけるオキノタユウの繁殖つがい数の推移
産卵年 従来コロニー(燕崎斜面) 新コロニー 合計
西地区 東地区 小計 燕崎崖上 北西斜面
2003
159
117
276
0
1
277
2004
174
122
296
2
4
302
2005
213
93
306
4
15
325
2006
230
84
314
3
24
341
2007
255
88
343
4
35
382
2008
268
94
362
6
50
418

 燕崎斜面にある従来コロニーの西地区では、繁殖つがい数が着実にふえていますが、東地区では2006年以降少しずつ増えているものの、まだ2004年の水準に回復してはいません。そのため、従来コロニー全体の繁殖つがい数の増加率は鈍化しています。


 いっぽう、デコイと音声再生によって誘引・形成された北西斜面の新コロニーはおどろくほどの急成長をとげています。これは、新コロニーで生まれ巣立ったひなが繁殖年齢(産卵後平均7歳)に達したためではなく、従来コロニーで育った個体が、混雑した従来コロニーを避けて、新コロニーに移動してきたからです。とくに東地区から2003-04年繁殖期以前に巣立ったひなは、成長して鳥島にもどってきたとき、それらの多くが2004-05年繁殖期に冬の嵐によって営巣環境が悪化した東地区に定着しないで、北西斜面の新コロニーに住み着いたと考えられます。

 

 表2に、11月下旬から12月初旬の産卵数調査のときに観察された個体のうち、頭部や胴体に黒褐色の羽毛が残っている(全体に白色ではない)およそ10歳未満だと考えられる個体(若齢個体)の割合を示しました。各産卵年の値は、数日間の観察の平均です(第97回調査報告を参照)。

表2 抱卵期におけるオキノタユウの若齢個体(約10歳未満)の割合(%)
産卵年 従来コロニー(燕崎斜面) 新コロニー 合計
西地区 東地区 燕崎崖上 北西斜面
2003
61
53
-
85
59
2004
58
55
100
87
59
2005
67
43
74
86
63
2006
65
34
65
91
62
2007
63
41
86
91
63
2008
60
40
75
89
60
平均
62
44
80
88
61

 従来コロニー西地区の若齢個体の割合(平均62%)は鳥島集団全体の割合(61%)とほぼ同じですが、東地区の割合(44%)はいちじるしく低く、「老齢化」が進行していることを示します。それとは逆に、新コロニーではその割合が北西斜面で88%、燕崎崖上で80%と非常に高く、そのことは他所(すなわち従来コロニー、とくに東地区)から若齢個体がどんどん移入していることを物語っています。

 北西斜面にデコイと音声再生によって新コロニーを形成する計画を構想したとき(1990年)、従来コロニーでひなを増産して新コロニーに誘致するという図式を想定しました。そのことが、18年後に実現したのです。ここでの繁殖成功率は70%以上で、従来コロニーより10%あまり高いので、新コロニーが成長するにつれて鳥島集団全体の繁殖成功率が少しずつ引き上げられることになります。その結果、鳥島集団の成長率もしだいに増加するはずです。

 また、新コロニーから巣立った多数のひなが繁殖年齢に達する2015年以降、それらの個体の繁殖集団への加入と従来コロニーからの移入で、北西斜面の新コロニーの成長率は加速されるにちがいありません。おそらく、2011年には約100組、2020年には約500組、2030年には約1500組になると、ぼくは予想します(従来コロニーの収容力は約500組と想定して)。

 さらに、営巣コロニーが鳥島の両側にあることで、自然災害(台風や嵐、泥流など)の集団全体の繁殖成功率への影響が相殺され、それがいちじるしく低下する年は少なくなるはずです。その意味でも、新コロニーの形成と確立はオキノタユウの再生におおいに役立つのです。

2. 巣立ちひな数と総個体数の予測

 もし、繁殖成功率が最近と同じ(過去2年間の平均)だとすれば、西地区では192羽、東地区では63羽、燕崎崖上では5羽、北西斜面では35羽、合計295羽のひなが育つでしょう。そのうち、西地区から15羽のひなが小笠原諸島に運ばれたので、今シーズン、鳥島から巣立つひなの数は約280羽と推測されます。

 その結果、鳥島集団の総個体数は、ひなが巣立った2009年6月の時点で、繁殖年齢個体1025羽、若鳥1030羽、巣立ちひな280羽、合計2335羽になると推定されます(集団生物学的資料にもとづいて算出)。

3.今後の繁殖つがい数と巣立ちひな数の予測

 表3に、非常に単純な集団モデルで予測した繁つがい数と鳥島から巣立つひなの数(概数)を示します(繁殖成功率を67%と仮定して)。

表3 単純集団モデルによる繁殖つがい数と巣立ちひな数の予測
産卵年 単純モデル予測値 ひな数 うち小笠原への移動数
2009
449
300
20?
2010
485
325
25?
2011
508
340
30?
2012
543
365
0
2013
586
390
0
2014
638
415
0

 もし、現在の環境が存続すれば、鳥島オキノタユウ集団は確実に成長するはずです。

4.まとめ

 1976年11月に最初の鳥島オキノタユウ調査を行なったとき、沖の船上からカウントした個体数は少なくとも69羽でした。2008年11月の第100回調査では683羽をカウントすることができたので、32年間で10倍にふえたことになります。また、第1回調査のときの繁殖つがい数は、その後の資料から逆推定して、約42組(およそ40〜45組)で、今回は418組でした。これもほぼ10倍になりました(これは、年率7.5%の増加率に相当します)。もし、鳥島集団が順調に成長すれば、32年後の2040年には少なくとも現在の約10倍、つまり約4200組に達するでしょう。

 ぼくは、とうとう昨年10月に還暦を迎えました。大学にいることができるのはあと5年、2013-14年繁殖期までです。それ以降もできるかぎりオキノタユウ集団の監視調査を継続したいと思いますが、最長でも2020年まででしょう。そのころには、鳥島集団は約1000組に到達すると予測されるので、その光景を是非とも自分の目で見たいと思います。残念ながら、32年後の光景は夢の中でしか見ることができません。

 第100回の調査、とくに新コロニーの繁殖つがい数の観察を、大江千尋さんと堀越雅晴さんにボランティアで手伝っていただきました。心からお礼申し上げます。