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バーチャルラボラトリ 有機化学は面白い−アミノ酸の化学−
東邦大学名誉教授
横山 祐作
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アミノ酸・糖などの生体成分を原料とした合成反応

 アミノ酸・糖は、極性が高い官能基(アミノ基、カルボン酸、水酸基)を数多く持っているため、水にしか溶けず、有機溶媒には溶けません。さらに、これらの官能基は反応性が高いために、望まない反応(副反応)が起こりやすくなっています。反応性や極性を小さくするには、官能基の保護によって有機溶媒に可溶にすると同時に、副反応を抑える必要があります。一方、生体内の反応では、官能基が保護されるということはありません。これまで、アミノ酸や糖の化学的な性質は詳細に検討されてきましたが、保護したい化合物の合成反応は、ほとんど報告されていませんでした。この理由は、水にしか溶けず、極性が高いために反応の進行を追跡しにくいことや、反応混合物から目的物をきれいに取り出すことが極めて困難だったからです。

 私は、アミノ酸や糖の水溶液中における反応の研究から、今まで知られていなかった新しい反応を見つけることができるのではないかと期待しています。そして、それらの反応を応用することによって、医薬品の合成がより簡単にできるようになるのではないかと考えています。

保護基を用いない合成反応

 現代の有機化学は、反応性が高い官能基を複数有する化合物の合成反応を行う際に、副反応を抑えるために保護基を用いて官能基を保護した後に反応を行うことが常識でした。しかし、保護、脱保護が必要なため、行程数が飛躍的に多くなり収率の低下を招いたり、全合成の最終行程では脱保護自体が不可能なために全合成が失敗したりするケールも多く報告されています。しかし、生体内では、反応性のアミノ酸や糖などのように反応性の高い官能基を有する化合物であっても、見かけ上、保護基なしで反応が進行しており、短行程で効率的に生合成が行われています。

 私は、反応の種類や反応条件を工夫すれば、酵素の力を借りなくても、試験管内で生体と同じように、保護しないアミノ酸や糖を用いた新しい合成反応を開発できるのではないかと考えて研究を行っています。保護基を用いない合成反応の方法論が確立すれば、合成化学が飛躍的に発展すると考えています。

水の中の有機反応

 有機溶媒(ベンゼン、ヘキサン、クロロホルムなど)と水とは混ざらず、2層になります。いわゆる水と油の関係です。一般に、有機化合物は有機溶媒にしか溶けず、水には不溶です。この逆に、無機化合物は有機溶媒に不溶で水には良く溶けます。この性質は、有機合成反応にはとても便利な性質で、試薬や反応によって生じた無機化合物と有機化合物は簡単な抽出操作によって分離することができます。また、水は多くの有機反応に用いられる試薬と反応してしまうため、できるだけ水がない状態で反応させる必要がありました。
 以上のことから、水を溶媒に使って有機合成を行うことはほとんどありませんでした。ところが最近になって、水を溶媒とした合成反応が注目を浴びるようになりました。それは、「有機溶媒は環境汚染物質であるためできるだけ使用しない方がよい」という考えが浸透してきたことと、水が存在してもいろいろな反応が進行するようになったからです。それだけではなく、水を溶媒として用いた場合にだけ、うまくいく反応も多く報告されるようになりました。 アミノ酸や糖のように水にしか溶けない化合物は、水を溶媒として反応するしかないのですが、これまでは無機物の分離が困難であり、精製法が十分確立していなかったため、これらの化合物の水を溶媒とした合成反応はほとんど研究されてきませんでした。

 私は、水溶性化合物の水溶媒中での合成反応の研究は、今までになかった新しい反応が見つけられる可能性があるだけでなく、新しい有機化学の法則が見つけられるかもしれないと信じて研究を行っています。