相関符号伝送 (整数係数の場合)    Correlative code transmission

 いわゆる、デュオバイナリ (Duobinary) 、バイポーラ (Bipolar) と呼ばれる一連の送信符号化技術を指します。 目的は、送信信号のスペクトルを成型することであり、たとえば、磁気記録のように直流成分を通さない媒体に対して、予め直流成分を持たない信号を用いてパルス歪みを避けるなど、さまざまです。 一般形は、たとえば2値データ に対して、

のような整数係数をもつ線形ディジタルフィルターです。 これを遅延オペレーター で表すと、

のように書けます。 係数が整数なので、送信シンボルは

の範囲の整数値(必ずしもすべてではない)をとるので多値伝送となります。 特に、

のようなものを、General partial response と呼んでおり、DuobinaryBipolar もこれに属します。 相関符号を行うと、レベル数が増加し、それを単に判定すると誤り率が劣化します。 この劣化は最尤系列推定 ビタビ・アルゴリズム )によって克服できます。 

    1. プリコーダー (Precoder )
    2. 誤り検出/再送
    3. 最尤(ユウ)系列推定

注1:単に「相関符号伝送」と言えば、符号と復号の回路が簡単な、整数係数の場合を指しているようです。係数を有理数に一般化することも可能です。この場合の興味深い伝送方式として、 THP ( Tomlinson Harashima Precoder ) があります。 これは、加法的白色ガウス雑音の条件下で伝送路の周波数特性が分かっているとき、伝送路応答を相関器(係数は整数ではない)と見做し、そのプリコーダーを送信側に置くという発想です。この方法は、送信情報を最小の損失で送る意味から、最適な伝送方式です。

 

<プリコーダー>
広く応用されている相関符号を下に示します。

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説明の簡単のため、バイポーラについて話を進めます。 バイポーラは直流とクロック周波数にスペクトル・ヌルをもっているので、直流を通さない伝送媒体に対して有利であり、かつ、シンボルクロックのパイロット・トーンをヌル周波数の位置に挿入することができます。 とりあえず、ストレートにブロック図を描くと下図のようになります。

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問題なのは、受信側で相関をほぐすディジタルフィルタ にあります。 これは不安定なフィルターなので、雑音を増幅してしまいます。 今度は、これを避けるために、3値判定を入れてみます。

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このシステムも、いったん判定誤りが発生すると誤りが永遠に伝播してしまうのでダメです。 このような問題を解決する手段がプリコードです。 一般的にいえば、次のような仕組みです。 冒頭の式(1)の送信データを非負の整数と仮定します。 もし、M値データならば、 といったぐあいに。 そうすると、伝送系は次のようなブロック図で書き直せます。

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要するに、伝送系は点線で囲んだ二つの部分に分割され、それらは互いにMを法として(Modulo Mで)演算されるフィルターとその逆フィルターの関係になっています。 すなわち、 として、

を直列に接続したものです。 これらの順序は交換可能ですから、式(6)を送信側に移すと、バイポーラーのプリコーダーモデルが次のように得られます。 式(6)の帰還ループを送信側に移すことにより、受信側での誤り伝播の心配が無くなりました。 なお、受信側で、3値判定を用いれば送信データの絶対極性を判定可能ですが、Modulo 2 をとると差動符号(極性反転に情報を乗せるシステム)になります。

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<誤り検出/再送>
下記は、そのまま2値伝送する信号とそのバイポーラー信号の例です。 どちらも平均電力は同じです。

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バイポーラーの特徴は、 が交互に送信されることです。 そのマルコフ遷移図は次のようになっています。 

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まず、ある瞬間に限定してシンボル判定に着目すると、2値伝送のシンボル間隔は であるのに対して、バイポーラーのシンボル間隔は(3値判定するので) です。 これだと、SNRで3dBの劣化になり,、明らかにバイポーラーが不利です。  を区別すれば絶対極性判定が可能、Modulo 2 をとって区別しなければ差動符号システムです。 2値伝送と同じ土俵で比較しなければ意味が無いので、ここでは実用的な差動符号で比較しておきます。 このとき、2値伝送の一つのシンボル判定誤りは2ビットの誤りに相当します。 ビット誤りに換算した結果を下に示します。 青色がバイポーラー、赤色が2値伝送です。

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上のカーブには大きな差がありますが、これはバイポーラーの特徴を利用していないことに起因しています。 バイポーラーの最大の特徴は、 が交互に送信されることでした。 しがたって、判定結果の累積が を越えたら正方向の判定誤り、 を下回ったら負方向の判定誤りがあったことを表しています。 この誤り情報と、再送方式を組み合わせて、信頼度の高い伝送方式が組めそうです。

<最尤系列推定>
3dBのSNR 劣化は最尤系列推定で原理的に解消されます。 バイポーラーは3値の信号ですが、もしなんの制約もない3値伝送ならば、 の情報伝送速度になります。 2値伝送なら、 ですから、 が冗長ということになります。 実際には、バイポーラーは の伝送しかしていないので、1秒間の可能なパターンは 個ではなくて、 個しかないはずです。 このパターンの制約が、 が交互に来るというルールからきています。 もし、二つの信号が一箇所だけで異なる( の違い)とすると、どちらかがバイポーラ信号になっていません。 最短信号間距離を与える二つのパイポーラ信号は2箇所で異なっていなければならないことがいえます。 たとえば、

に対する最短信号間距離の信号は、

(1) 連続する の区間の二つの で置き換えられている。

(2) が隣の の位置にシフトしている。

(3) 連続する になっている。

などです。 この信号間距離は2値伝送の最小信号間距離(一箇所だけ、 が異なる)に等しく、最尤系列推定の誤り率は3dB劣化を回復し、2値伝送と同等になることがいえます。

注2: 最尤系列推定を実行する有限記憶容量のビタビ・アルゴリズムの装置化においては、アルゴリズム固有の誤り増幅があり、別途この評価が必要です。

注3: ここで述べた内容は、送信スペクトルを簡単な回路で成形する手法でした。加法的白色ガウス雑音の条件下で、伝送路の周波数特性が分かっているとき、送信情報をもっとも効率良く送る手法として、 THP ( Tomlinson Harashima Precoder ) があります。これは、伝送路応答を相関器(係数は整数ではない)と見做し、そのプリコーダーを送信側に置くという発想です。