ブナ科の落葉低木 花期は5月。堅果は一般的に「どんぐり」と呼ばれる。花後、その年にはあまり大きくならず、翌年に熟して直径2cmほどの濃褐色の球形になる。殻斗は椀形。
和名の由来:「転じた説」編
クニキ(国木)から転じた説:日本書紀に景行天皇がこれを命名した伝承説話があるとか。
クノキ(食之木)から転じた説:食用の実をつけるブナ科樹木の総称から。
クズニルキ(屑煎木)から転じた説:皮を煎じて染料にすることから。
クリニギ(栗似木)から転じた説:栗の木に似ていることから。など、「転じた説」のほかにも諸説ある。
学名 Quercus acutissima Carruth.
属名「良質の quer」+「材木 cuez」の通り、火持ちがよく火力も強いので薪炭材として極めて良質。
漢名 櫟、橡 「橡」は日本語でつるばみと読み、どんぐりの古名。
和名漢字表記 櫟、椚、橡 このうち「椚」は門のところにある境目の木(区の木)から転じた国字。
ところで、ブナ科の葉はヤママユガの好物だそう。
ヤママユガ(天蚕)の繭を見たことがあるだろうか。この繭からは糸を得ることができる。天蚕糸と呼ばれる萌黄色の希少な糸で、長野県では養蚕と絹織物の生産に力を入れているまちがある。是非、キーワード ‘長野県’,‘天蚕’ で調べてみていただきたい。
櫟という漢字を見てみよう。「櫟」は白、幺、木とともに樹木の限定符号「木」で成り立っている。白はどんぐりを描いた図形、幺はヤママユガの作る繭の形を表しており、ここに木を合わせたものがクヌギを表す原字だという。どんぐりの成る枝に萌黄色の繭がぶら下がっている様子を思い浮かべてみる。葉が落ちて良く見えるようになった枝がコロコロとした飾りを纏っている。
クヌギという木に丸いもの(繭)や粒状のもの(どんぐり)がごろごろついているという視覚的なイメージが、楽器が賑やかな音を立てるという聴覚的なイメージに繋がり、「樂」は音楽や愉楽を表す文字となったとか。そのため、クヌギは樹木の限定符号をつけて「櫟」と表記するようになったそう。
漢字の成り立ちについて参考にさせていただいた、「植物の漢字語源辞典」(加納喜光著/東京堂出版)では、つぶつぶと賑やかな音を表す「樂」繋がりでこんな漢字が紹介されている。
薬 草を粒状にすりつぶしたもの → くすり
礫 ごろごろした石の塊や粒 → つぶて
轢 車輪で粒状にすりつぶす → ひく
爍 火光の粒が四方に出る など「丸い塊や粒状を呈する」 というイメージ
クヌギには全く関係のなさそうなものも、視点を変えると繋がっているものである。
